滋賀県八日市のご出身である北山善夫さんの個展が、地元の八日市文化芸術会館で開催されていると知り、見に行ってきました。大津からは約1時間強、けっこう遠かったですが、とても素晴らしい展覧会で、行ったかいがありました!
北山善夫さんの作品は、滋賀県立近代美術館にも所蔵されています。細い竹と和紙で作られた、前面にうねって飛び出してくるような大きな立体作品で、繊細な素材でありながら、色のカラフルさと造形の力強さが印象的。できれば美術館の中ではなく、青い空のもとで眺めてみたいような、解放感のある軽やかさがお気に入りの作品です。
そのイメージが強かったものですから、ネットで見かける今回の展覧会の記事や写真を拝見していると、んん?ちょっと違うぞ…?ってことで、俄然興味が湧いてきたわけです。
1970年代より竹と紙による大型彫刻で注目を集めた北山さんですが、1980年代前半からは絵画作品に取り組まれているとのこと、今回の展覧会にもインクで細かく描かれたドローイングが何点か展示されていました。人体の描き方に特徴があり、線描でゴツゴツした立体感があらわされているのですが、これは北山さんが粘土で造形した立体物を描いていると知り納得。会場には、実際に粘土で作られた多数の人形がばらまかれたインスタレーションがあったのですが、それを見ると「これを描いてはるんや~」とよくわかります。
北山さんは、子どもの頃から大病を患い、それによって「死」を強く意識し、現代美術家を目指すようになったとのことです。この展覧会でも「死」は明確なテーマのひとつでした。ワークショップで参加者に「死」や「生命」にまつわる新聞記事を選んでもらい、それについて感じたことを絵に描いてもらって語り合う…その記事と絵や感想が大量に展示されているコーナー。長く取り組んでおられるので、もう茶色くなった古い新聞記事もあれば、今回、期間中に中学生を集めて実施したものも一緒に展示されていました。
天井まで死亡記事が貼られているのを見ると、軽くショックを受けます。記憶に刻まれている大事件もあれば、見過ごされるような小さな死亡記事も。それが膨大に集まっていることをビジュアルで見せられると驚くし、でも実は毎日毎日新聞に載っている記事のほんの一部であるという事実に愕然…。参加者の一人ひとりが心を砕くことでその記事が立ち上がって来るようです。でも想像力で描いた絵より事実を記した文字に重みがあるようにも思えます。
会場の真ん中には、私がイメージしていた竹と紙の立体彫刻が展示されていました。「中腰でながめる」のタイトルどおり、腰より低めの位置にグルッとうずまきになっている大きな作品。また、そこに天井から「天使の椅子」という作品、天使の羽根のついている細い竹で組まれたとても小さい椅子がいくつか吊るされていました。あまりにかわいくて、1個欲しかったです~!
絵画・彫刻・インスタレーションと、少ない点数ながら、北山善夫さんの作品世界を見渡し堪能させてくれる展覧会でした。ご親切なスタッフの方に伺ったところによると、こんな機会は初めてだとのことで、ご出身地で開催できたことは、とても良かったなと思います。
八日市といえば、大凧で有名なので、私はてっきりその影響もあるのかと思っていたのですが、そこはあまり関連はなかったようでした。(でも材料は似てますよね、ちなみに帰りに大凧会館にも寄ってみました)
いや~、今を生きるアーティストの多様性というか重厚さは、本当に素晴らしいと改めて思いました。決してひとつの作品で評価はできないし、してもいけない、いろいろな作品を通じ、アーティストをまるごと感じることに感動を覚えました。本当に行ってよかったです!
展覧会は、1月30日(金)まで。なんと入場無料!もうすぐ終わってしまうけど、ぜひたくさんの方々に見ていただきたいです!