アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

ヨコハマトリエンナーレ2014 (その1)

2014-10-13 | 展覧会

華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある

横浜に行ってから、もう2週間になるのだけど、今もこの展覧会のことをあれこれ考えてしまう…。私にとってそれほどインパクトのある展示内容であった。

近頃各地で行われているアート・イベントのひとつ、と最初はあまり行く気はなかったのだが、森村泰昌さんがアーティスティック・ディレクターで、そのストーリー仕立てになっているコンセプトをきくと、俄然興味が湧いてきて訪ねることにしたのだ。会場が横浜美術館と新港ピアの2カ所とコンパクトなのもよい。

テーマにある「華氏451」とは、レイ・ブラッドベリの近未来小説「華氏451度」に由来しており、華氏451度とは紙が自然発火して燃え始める温度を指している。この小説の中で文化や叡智の象徴としての「本」は、罪深いものとして所持することを禁じられ存在を消されようとしている。1950年代の小説なのに、テレビやインターネットが蔓延し画一的な情報におどらされがちな現代社会を予言している。こんな世の中にあって、「本=芸術」の存在とは…?そして記憶と忘却のその先にはいったい何が…?

まず横浜美術館では、テーマのもとに繰り広げられる7つのストーリーが展開されている。それに先立つ序章として、エントランスホールに巨大なゴミ箱「アート・ビン」(マイケル・ランディ)が。これは「創造的失敗のモニュメント」、有名無名のアーティストが投げ込んだ作品がゴミとして横たわっている。ゴミとなっても存在感を放つ作品もあれば、完全に裏返っちゃって存在自体認められない可哀想なものも。きっと作家にとって失敗作品にも捨てられない愛着ってあると思うけど、なんだかそういうものを纏いつつ、思い切った爽快感もあるような、不思議な風景。また入れ物が巨大なのでなおさらだ。

第1章は「沈黙とささやきに耳をかたむける」。いきなりマレーヴィチの1914-15年の素描!そしてジョン・ケージの代表作「4分33秒」の楽譜!いわゆる地域興しのアート・イベントとは全く違う展開を期待させ、もうワクワク。禁欲的な語らぬ作品が続く。

圧巻は、第3章「華氏451はいかに芸術にあらわれたか」。これは、作品といっていいのか…。展示されているひとつひとつにドシン、ドシンと衝撃を受けた。

まず、ドラ・ガルシアの「華氏451」ペーパーバックの山。これは手にとってもよい。パラパラめくるとすべて鏡文字!読むことのできない本。この小説に描かれるような書物を禁じるという行為への抵抗か。そして大谷芳久コレクション。第二次世界大戦中に戦争や軍を讃える詩文を発表した当時の書籍が展示されていた。戦後も活躍した、誰もが名を知っている作家たちばかり、これらは戦後はもちろん隠され、葬り去られた。本自体もそれを著した作家たちの過去も…。「忘却」というキーワードがズンと胸に迫ってくる。

そしてマイケル・コラウィッツ「どんな塵が立ち上がるだろう?」。1941年にイギリス軍に攻撃され燃えてしまったドイツ・カッセルの図書館の蔵書を石でかたどった作品なのだが、この石はタリバンが破壊した古代遺跡バーミヤンの石仏のものを使っている。 下の写真のガラスに書かれた文字が読めるだろうか?

「私はバーミヤンの仏像を破壊したくなかった…外国人が仏像を修復したいと申し出た…私はショックを受けた…生きている何千人という人々、餓死しかけているアフガン人のことなど気にかけず、仏像の心配をしている…それで私は仏像の破壊を命じた…彼らが人道的な仕事のために来ていたら、私は破壊など命じなかっただろう。」(抜粋)

すごい衝撃を受けてしまった。バーミヤンの破壊をさんざん非難していた一方の見方と、破壊した方の切実な言葉…。正しい価値観なんて、ホントないんだ、と実感した。

他にも、タリン・サイモンの「死亡宣告された生者、その他の章 Ⅰ-ⅩⅤⅠⅠⅠ」というプロジェクト。世界中を旅した作家が、各地で出会った血統とそれにまつわる物語を調査し記録したもの。作品としては、関係者のポートレイト、物語の詳細の記述、物語の断片や写真の3面で構成されている。その物語も、生きているのに死亡宣告された男、女性初のハイジャック犯、ウクライナ児童施設の子どもたち、と複雑だ。

これらの作品は、「美術」とは言えないのかもしれない。でも、「世界をまるごと切り取っている!」とはっきり確信した。アートは、分析したり評価したり改善したりはしない。だけど、この複雑で統一の価値観でははかれない混沌とした世の中の事象を、さまざまな手法でまるごと見る人に呈示してくれているのだ。なんて、素晴らしいのだろう!と、静かに感動してしまった。どう感じるか、考えるかは、見る人に委ねられている。

第4章「たった独りで世界と格闘する重労働」では、またもや福岡道雄さんの作品に出会えた。 

 

この風船のようなものは、色味が内臓を思わせるようなグロテスクさ。紐を持つ人が浮かび上がっていて、風船に重量感のある不思議な逆感覚。タイトルの「飛ばねばよかった」も意味深だ。「飛ぶ」ことはポジティブなイメージなのに、後悔しているの…?そして壁には黒いFRPのタブローが。近寄ると何やら小さな文字が描いていある…。それは何と、無数の「何もすることがない」!福岡さんって、やっぱりかなりおもしろい作家。ますます興味が深まった。一度お目にかかってみたい。

第6章「おそるべき子供たちの独り芝居」では、坂上チユキさんの作品を、とてもたくさん見ることが出来て嬉しかった。本当に繊細な線。単色だけの作品より、少し色味があるものの方が好きだった。描かれている世界は不思議だけど。

他にも印象的な作品がたくさんあった。そして次の会場、新港ピアへバスで向かう。さあ、大竹伸朗さんの作品が待っている~!(長くなったので次回へ続く)


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