この本、新書版なのですが、「集英社新書ヴィジュアル版」ってことで、カラー図版や写真がとっても豊富で、読んでいて(見ていて)ホントに楽しい一冊です。
藤田嗣治という作家がとても素晴らしいな~と改めて思ったのは、2009年に上野の森美術館で「レオナール・フジタ展」を見たとき。その展覧会は、幻の群像大作の連作を中心に、初期の作品から晩年の宗教画まで、藤田の生涯を追った大規模なものだったのですが、その中で、私の印象に特に残ったのは、「ラ・メゾン=アトリエ・フジタ―エソンヌでの晩年」というテーマの作品群。君代夫人と最晩年を過ごした小さな住まいには、藤田が自らの手で作り上げた家具や食器や小物など、思わず「カワイ~」と言ってしまうようなモノたちがいっぱい、美術界の大御所ともいえる藤田の、その手仕事ぶりに感心したものでした。
この本は、まさにその藤田の手仕事ぶりを紹介した本です。読んでみると、藤田は大工仕事だけでなく、布に対する執着もあり、裁縫などもこなし、自分の服を自分で縫って作っていたことが紹介されています。家のインテリアにはすごいこだわりがあり、フランスの最後の家だけではなく、日本で日本家屋に住んでいたときの絵や写真などを見ていても、こだわり抜かれています。(さぞかし、お金もかかっているでしょう…)
藤田の肖像写真を見たときのスタイル(おかっぱ頭、丸メガネ、ちょび髭…)も独特ですが、ライフスタイルすべてにおいて、自身のスタイルを貫いていた人なのだなあと改めて感心しました。美術の本場、フランスで賞賛されたこの美術家を、同時代の人たちはどんな風に思っていたんでしょうね~。
この本の最後の章は「書く」。藤田は、日記をこまめに付け、その他にも日々の食事や買い物などいろいろな記録を実に詳細に残しているそうです。また、本の中では、藤田が君代夫人や友人に送った絵手紙も掲載されていて、それがまたユーモラスでおもしろいんです!これらは、君代夫人が藤田の死後も40年にわたって手元に大切にとっていらしたもので、今後の保存と研究による、新たな藤田像の解明が期待されているとのこと。著者の林洋子さんは、「書くことも、藤田の手しごとだった」と書かれています。
林さんの文章は、大変読みやすく美しいと思いました。想像ではありますが、暖かなお人柄で、きっと君代夫人の信頼を得ておられたんだろうな、と感じました。
先週までBunkamuraで展覧会やってたんですね~、「小さな職人たち」見たかったなー!!藤田嗣治、レオナール・フジタにはこれからも新しい出会いがありそうな気がします。