アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

映画「希望の国」(監督:園子温)

2013-01-24 | 映画
いよいよ、園子温監督の「希望の国」を見に行く。朝一番のシネコン、チケット売場は混雑していたけれど、「希望の国」の観客はたった4人でした…。
それでもシネコンでやる心意気!こんなに大勢の人が見るべき映画なのに!

鑑賞者が口ぐちに言うように、タイトルにあるような「希望」があふれた映画では、全くない…。
舞台はいかにも福島県を思わせる長島県、設定は福島の後の話だ。地震が起こって、原発に近い村の人々が強制退去させられる。
前半は、庭の真ん中に杭を打たれた主人公の小野家、隣の鈴木さんは避難したのに、こちらは20キロ圏外で避難の対象でないという、いわゆるお役所のやることの理不尽さに翻弄される家族が描かれる。将来を思って避難を決意する息子夫婦と生まれ育った家を離れない決意をする親夫婦。
中盤は、妊娠がわかった息子夫婦が、生まれてくる子どものために、放射能という目には見えないけれど闘いを挑んでくる恐ろしいものに立ち向かう姿が、デフォルメされて描かれる。彼らのセリフには、最初はすごく神経質だったのに、時間がたつとそのリスクを忘れてしまう世間への批判がたっぷり込められている。
そしてクライマックスの終盤には、打たれた杭は、実は人々の平穏な生活に、幸せであるべき人生に、突然打ち込まれたものであることをひしひしと感じさせられるのだ。

目に見えない放射能への恐怖を誰も非難はできない。でも今ここで、人は牛は花は木は、こうして生きている。この場所を離れることはできない…。

そうするしかなかったのか…という苦い思いと、そこにあふれる親子の愛に思わず泣けてくる。

見終わって、この映画は「愛の映画」だと思った。重いテーマと、重苦しいストーリーに絡められながら、登場する親夫婦、息子夫婦、鈴木さんの息子カップル、3組の男女はそれぞれの接し方で、パートナーを心から愛している姿がキラキラと映し出されていた。特に夏八木勲演じる夫と大谷直子演じる認知症の妻、この夫婦のやり取りは全部ステキだった。あの雪の中のおんぶのシーンの美しかったこと!あの夫婦の姿は絶望のなかの「救い」だった。

初見の園子温監督作品、いろいろな批評もあるようだけど、監督が福島と全身で向き合った作品であると、私は思いました。そしてこれはフィクションにとどまらず、今ここにある現実が映し出されていることを受け止めなければならない、と感じています。

sa
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

福岡で出会った美術館

2013-01-20 | 美術館
  

先日の連休に福岡へ旅行に行きました。初めてLCCを利用!うー、噂に違わず、座席はめっちゃ狭かったです。すぐ着いたからガマンできたけどね。

今回訪ねたのは「福岡アジア美術館」。世界に唯一の近現代のアジアの美術を収集・展示する美術館として以前から注目していました。
福岡って地図で見ても大陸に近い!古来からアジアからの窓口としての役割を果たし、アジアとの交流を深めた地域であったことから、このコンセプトの美術館が設立されたそう。また、「福岡アジア美術トリエンナーレ」というアジアの現代美術が一堂に会するというイベントも3年に1度開催されているとのことです。

今回の訪問では「渓山清遠 中国現代アート・伝統からの再出発」という企画展が行われていました。正直言って、中国の現代アートをじっくり見るのは今回が初めて。アート・バブルでめちゃくちゃ高値がついている、とか、一部の有名なアーティストについては見聞きしていましたが…。
この展覧会は、これまで中国の現代アート界を席巻していた流れとは異なる、伝統的な絵画に回帰しながらも独自の表現を試みる、若手アーティストの作品を展示するものです。
テーマはきわめてわかりやすい風景画が多かったです。何せ30~40代の若い画家が、つい最近描いたような作品ばっかりだから、なんか作品がピチピチして眩しい感じ。いろいろな表現があっておもしろかったんだけど、特に何名かの画家による、具象画なのに超厚塗りの、絵具のツヤツヤした質感残りまくりの絵が珍しいな~と思いました。(抽象画ではありがちだと思うんだけど…)まだ油絵具の匂いが漂ってくるような…生々しい絵具の痕跡。
その他にも、粗い布地や羽のように薄い絹の上に絵が描かれていたりして、やたらと絵の材質感みたいなものが浮かび上がって来る作品が多かった気がして興味深かったです。

コレクション展でも「中国1979-2009 現代美術の軌跡」と「ガンゴー・ヴィレッジと1980年代・ミャンマーの実験美術」という、ホント他の美術館では見られないような展示を楽しめました。特に中国の現代美術については、時代背景とかも含めて、もっと知りたいな~と、すごく興味わきました。ミュージアム・ショップで適当な書籍がなかったのが残念です。

次に福岡旅行のお約束「太宰府」へ。いやあ~えらい人出でした。アジアからの観光客も多かったです。
この太宰府天満宮の宝物殿企画展示室では、なんと!「フィンランドテキスタイルアート 季節が織りなす光と影」という展覧会が行われていました。なぜ太宰府でフィンランド?そんな疑問はどうでもよくなるような、すごく意欲的な展示だったと思います。
フィンランドと日本の美しい自然と密接に関わったデザイン感覚や美意識をさぐることをテーマに、マリメッコのデザイナーを初めとする3名のテキスタイルデザイナー(日本人である石本藤雄さんのも!)の作品展示と、あと真ん中に日本画家・神戸智行さんによる作品と神社の装束が展示された部屋があって、そこで川の流れのようにいろいろな宝物を展示しているのが、すごくおもしろかったです。このクリエイティブな展示をされた学芸員さんには拍手を贈りたい!
また太宰府の境内にも、インテリアデザイナーimaによるマリメッコのファブリックを使ったインスタレーションがひっそり展示されていて、いやあ、太宰府でこんなアートが楽しめるなんて!!サイトを見ると、さまざまなアートプログラムも行われているようです。由緒あるけどおもしろい場所だなあと思いました。

福岡、おもしろいところです。食べ物も美味しいし(ラーメンにはまりそうです)またぜひ訪ねたいです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ヘンな日本美術史」 山口 晃 (祥伝社) 

2013-01-13 | 


今をときめく現代の絵師、山口晃氏による初の書き下ろし画論。本の表紙のカバーでは、雲海にのって歴史上の絵師たちが筆をふるっておいでです…、もちろん山口晃作。髭をたくわえたご自身の姿も見えます。
タイトルに「ヘンな」とついているのは、この氏による美術史がいささか変わっているのか…、それとも「日本美術」が特異なのか…。

やはり「絵描き」の視点というのは独特。絵を描かないものにとっては、ましてやプロの絵描きだからこその視点というのは、想像つかないものだな~と思います。氏は先達の絵を得手勝手に見立てているだけ、とおっしゃっていますが、その独断が冴えれば冴えるほど、読んでいるこちらは、ワクワクと楽しくなります。

取り上げられているのは、「鳥獣戯画」「源頼朝像」「彦根屏風」など超有名な作品はじめ、雪舟、岩佐又兵衛、河鍋暁斎、月岡芳年など日本美術史を彩る作家を多彩に。
特に雪舟の章は、中国の関わりの中で画風を確立していった雪舟について、本物の作品の凄みに触れる中、同じように描く者だからこそ想像できるメンタリティをすごく豊かに伝えていて大変おもしろかったです。
山口氏が、歴代の巨匠の絵画を見ながら「少しは肉を描け!」(雪舟の「破墨山水図」が背骨だけでできている絵画だと評して)とか「とりあえずアゴの下を取ってから来い!」(岩佐又兵衛の描く人物が全て下膨れなのに対し)とかツッコミを入れながら見ていらっしゃるところを想像すると、なんか笑っちゃいます。
先日の京都の「山口晃展」でも「邸内見立 洛中洛外圖」が出品されてましたように、氏の洛中洛外図に対する思い入れ、いろいろなパターンにワクワクされている様子もよ~く伝わって来ます。

一番印象的だったのは、日本の美術に西洋的な写実が入り込みその技術が習得される中で、日本古来の表現であった本当の意味での写実、つまり「見たまま自由に描くこと」が失われてしまったということ。

~幕末、ある西洋人が日本人が描いた似顔絵を見て尋ねました。「なぜ、横顔を描いているのに目は正面を向いているのか?」その日本人は答えました。「本当だ。今まで気づかなかった」~

山口氏自体も、もともと油絵を学んでおられたので、そのやまと絵の表現はもうできない、と書かれています。きっと自分自身も何かを知ったり理解することで、逆に見えなくなったり理解できなくなったりすることもあるのだろうな~と、絵画鑑賞にとどまらないそのようなことに気づきました。

一般的ではない日本美術史について、そしてまた、山口晃氏の絵画に対する思いなどを知ることもできる、大変楽しい一冊です。ぜひご一読を!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

情熱のピアニズム@京都シネマ

2013-01-07 | 映画


またまた映画の話題をひとつ。
ツイッターでも、何度も反射的にリツイートしてしまった同映画、本日ついに京都シネマで鑑賞の運びとなりました。く~、楽しみにしてたよ!
久しぶりに訪れたミニシアターは、やっぱり映画への愛があふれてる感じで心地良かったです。画面は小さいけどネ。それにしても、マイナーな映画だと思っていたのに案外お客様が多くてびっくり。若い方も多かったですね。

この映画は99年に亡くなってしまったフランスのピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニの短くも情熱的な人生の一端を、存命時の映像や取り巻く人々のインタビューで構成したドキュメンタリーです。
彼は、私にとって今も一番大好きなジャズ・ピアニストです。ジャズってクール(知的)でカッコイイけどちょっと難しい…、ゴリゴリタイプもいいけど、やはり旋律やハーモニーの美しさを求めてしまうんですよね~。
ビル・エヴァンスも素敵ですが少し神経質な感じ…そこに出会ったペトルチアーニは、美しいけど骨太な感じが、すんごく好みでした。最初にビビビと来たのは、上記のCDに収められている「It's A Dance」という曲。なんて、なんて美しい曲なんだろう!!ライブでカバーされているのを聞いたのだけど、すぐCD買いました。
そして彼の身体のことも知ったのですが、そんなことは、本当に全く感じさせない、というか関係ない、というか。ソロのライブアルバムも大好きです。

彼の死を知った時は、本当に惜しくて残念に思ったものですが、その理由とかよく知らなかったのです。
今回映画では、いろいろなことが改めてわかりました。生まれつき骨折しやすい身体…よくあんな力強いプレイに耐えてくれたものです。お父さんが音楽家でけっこう英才教育を受けてたんだ~とか。そして常に前へ向かって疾走するようなひたむきさ。障害のことなんて全然気にしてないってのは本心だろう。でも息子さんが遺伝子を受け継いでしまったことには衝撃を受けました…。
そして何と言っても奔放な女性関係。お相手の方がインタビューに登場するのだけど、ヒドイ去り方をされても、皆さんミシェルのことを心から愛しているという表情がとても印象的だった。

もっと身体をいたわる生活をしていたら、もっと長く生きていられたのかな…。でもあのような疾走した人生だったからこそ、素晴らしい音楽が生まれたのかな、とも思う。
今回、彼の生の声をたくさん聞けて嬉しかったのですが、もっと演奏を聴かせる場面もあってもよかったかな~とも思う。やっぱりそれこそが「ミシェル・ペトルチアーニ」だから。
もう亡くなって14年もたつのか…と思っていたら、何と鑑賞日の1/6が命日でした。ミシェル、素晴らしい音楽をありがとう!これからもずっと聞き続けるよ!
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2013謹賀新年(昨年の美術展を振り返る)

2013-01-03 | 展覧会
新年あけましておめでとうございます。
今年のお正月は、おおむね天気も良く、今日はびわ湖サイドを散歩しましたが、体が温まって来ると冷たい風が気持ち良いくらいでした。
さて、昨年、当ブログにお越しいただいた皆さまには心より感謝いたします。今年も自分なりにアートをオモシロ視点で紹介できれば、と思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、昨年の美術鑑賞状況を振り返ってみますと、見たもんについては全てこのブログに記してきましたので、年間20本ほどです。行きたかったのに結局行けなかった展覧会もたくさんありました。世間の美術ブロガーさんたちは、本当にたくさんの美術館やギャラリーを訪ねてらっしゃいます。やはりそれだけの情熱がまだまだ不足しているのだと反省しきり!それに一日に3館くらい回れる体力を養う事も必要かもしれない…。
その中で、私がベスト3をあげるなら。

第3位「犬塚勉展」(京都高島屋) 
テレビで見てからずっと気になっていた画家だったので(番組の録画も消せなかった…)、実物の作品をこの目で見ることが出来て、本当によかったです。草の1本1本の緻密さには本当に圧倒され、そこまで描こうとした作家の思いと、魅せられた場所で命を落とされてしまったことに、心に深く感じるものがありました。画業を辿ることにより、画風の変遷も興味深かったです。

第2位「ジャクソン・ポロック展」(愛知県美術館) 
理由は犬塚さんと似てるかも…。ポロックも何か哀感を持って鑑賞した展覧会でした。最盛期のドリッピングの作品は、本当に素晴らしかったです。作品って本当に作家の人生を語るものだとつくづく思いました。名古屋まで行ったかい、ありました!

第1位「蕭白ショック!」(三重県立美術館) 
本当におもしろい絵の数々…。眺めていて飽きることのないくらい。日本の絵画の世界って、すんごい奥深いな~と実感。楽しくてたまらない展覧会でした!

そして次点というのとはちょっと違う、奈良さんの展覧会「君や僕にちょっと似ている」を始め、山口晃さんや名和晃平さんといった今を生きる、今この世の中で活躍している日本の作家さんたちの作品を見ることができたのは、大きな喜びでした。同じ時代の同じ空気を吸っている作家たちが表現しようとしていることを、敏感にかぎ取って反応できる人でありたいと思っています。

さてさて、今年はどんな展覧会に出会えるでしょうか?同時代シリーズとして、会田誠さんの展覧会は行こうと思っとります。やっぱり東京でしか見れない天覧会はいっぱいあるから、今年はドシドシ出かけよう!と考えています。(関西、もっとガンバレ!)

皆さまも、どうぞアートのあふれる充実した1年をお過ごしくださいませ。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする