アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

没後50年 藤田嗣治展@京都国立近代美術館

2018-11-16 | 展覧会

お待ちかね、京都にやってきた「没後50年 藤田嗣治展」に早速行ってきた。50年前というと、私は生まれていたがほぼ記憶のない頃、母親に「当時のこと覚えてる?」って聞いてみたら「日本に見切りをつけてフランス人になった人でしょう?」とのこと。なんだか、当時の評価が偲ばれる言葉だ…。

以前の記事にも書いたように、ここ10年で藤田嗣治の展覧会をいくつも見ている。特に2年前に兵庫で見た生誕130年の回顧展の記憶は新しいが、そのときより作品本位に出品されているのが本展だ、というのは企画者・林洋子氏のお言葉、期待が高まる。

展覧会は藤田の生涯をたどって作品が展開されている。最初のコーナーに東京藝術学校卒業時に黒田清輝に酷評されたという自画像とともに、同じ頃に描かれた父の肖像画が展示されていた。軍服を着用し威厳のあるお姿。当時のそんな職業の人にしては、息子が画家になることに意外と理解を示していたようだが、藤田の生涯の中で、大きな存在であったことは間違いなく、そこに並んでいることが象徴的に感じられる。

パリに渡った初期の作品の中で、風景画がたくさん見られるのが興味深い。後日、関連の講演会を聞きに行ったのだが、浅田彰氏が、藤田は「お裁縫の人」、風景画はまるで布を寄せ集めたように面で構成されている、彼の絵画は布を剥ぎ合わせたように平面的だと言われていたのには、めっちゃ納得してしまった!

生涯を通して、藤田はやっぱり戦略家だな、と感じる。今で言うところの自分ブランディングに長けている。個性豊かな芸術家が集うパリで、いかに日本から来た自分が、自分だけの個性豊かな作品を生み出せるか探求し続けていたのだろう。初期の幽霊みたいな特徴的な人物画から、乳白色の肌の裸婦を描き始めるところなんて、特に。会場で残念だったのは、防護柵があり、作品までの距離が遠かったこと。乳白色の裸婦は、細い流麗な輪郭線を間近で眺めるのが目の喜びなのに〜。

パリを離れた後、南米を巡り日本へ帰って来てからの作品も充実していた。私は藤田が強烈な色彩で描く、この土着的な絵がけっこう好きだ。また、今回初めて見た、沖縄を舞台にした人物作品も生命力にあふれているようで、いいな、と思った。沖縄なのに、空が美しい青ではなく、グレーだったのが不思議に思い印象に残った。

戦争画は2点出品されていた。3度目の対面となる「アッツ島玉砕」と「サイパン島同胞臣節を全うす」だ。この茶色いインパクト大の作品は、藤田の生涯を語る上では外せないが、2点だけでは唐突感も否めない。今回は、藤田がずっと付けていた日記群が一緒に出品されていて、ちょうど終戦前後の日記が処分されて存在しない、ということが、作品とあわせて戦争に翻弄された画家の姿を際立たせていた。

戦後、日本を離れてパリへ永住し、日本へ2度と帰ることのなかった藤田。パリに行く前に、まず立ち寄ったニューヨークで描いた名作が、チラシに掲載されている「カフェ」。物憂げな女性が座るテーブルには、書きかけの手紙。藤田は生涯を通して筆まめで、数々の手紙が残されている。このニューヨーク時代、妻の君代さんのビザ発給が遅れ、到着を待つまでの間、世話をしてくれいた友人であるシャーマンに数多くの手紙を送っていたから、象徴的に感じる。これらの挿絵がいっぱいの素敵な手紙は、「本の仕事展」で紹介されていたし、林洋子氏による「手紙の森」という著書にも詳しい。

今回の展覧会にあわせて、NHKの特集番組が放映されていたが、このたび藤田の残されたパリのアトリエから、12時間にも及ぶ彼の肉声テープが新たに発見されたそうだ。その一部を聞くことができて興味深かった。(展覧会でも聞けると思ったけど、それはなかった。残念!)「必ず絵には永久に生きている魂があると思っております…」もちろん日本語で、いつか誰かが発見してくれるであろうと残した言葉が藤田らしいようで、痛々しくもあり…。

展覧会で作品を見て、書籍を読んだり、テレビ番組を見たり…かなり藤田嗣治という画家を知ることができたようで、でも実は全然わかっていないかも?と思ったりもする。そう思わせる人物だってことが、ますますわかってきた。どこまでが本音なんだろう?本当は、どんなふうに思ってたんだろう?

藤田が長年書いていた日記は、君代夫人がずっと持っていて、亡くなられた後、東京藝術大学に寄贈されたそうだ。この先もっといろいろなことが明らかになり、もしかしたらそれによって、作品の見方もさらに変わるのかもしれない。本当に興味深い芸術家だ。

京都国立近代美術館では、コレクション展でも藤田嗣治の関連作品が展示されている。藤田と同時代のパリに集った芸術家たち、ピカソ、シャガール、ユトリロ、モディリアーニ、キスリングなど。藤田の作品も10点ほど。こちらは間近で線を楽しめて嬉しかった。他に藤田と同時代の日本の画家や、藤田と同じく没後50年のマルセル・デュシャンの小特集もあり、すっごく見応えありました。こちらも、ぜひ楽しんでいただきたい!

本展覧会、コレクション展とも12月16日(日)まで。京都は紅葉真っ盛りです!


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