アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

「あの日、僕は旅に出た」(蔵前 仁一) 

2014-03-23 | 

  

 

 

 

 あの日、僕は旅に出た

海外旅行の魅力。やはり、日頃まみれている日常から隔絶され、日本の常識が通じない環境に放り込まれ、自分の価値観を揺さぶられながら、見たことないもの・聞いたことないもの・味わったことないものを体験することじゃあないだろうか。

インドから始まった海外への旅熱が、『旅行人』を初めとする雑誌・書籍へと結実する編集人、蔵前さんの80年代から現在への遍歴をまとめた興味深い本。けっこうページ数は多くてぶ厚いんだけど、軽い紙を使っているのか、持ち運びは苦にならず。ちょっとくすんだ紙質がインドっぽい…?(こじつけ)

しょっちゅう書店には行っているのだけど雑誌『旅行人』はあまり認識がなかったなあ…。リアルタイムに読んでみたかった気がする。でも蔵前さんとこの出版社が出したグレゴリ青山(グレちゃん)の本はけっこう読んでいるし、今回我が家の本棚を掘り返してみると98年出版の「旅行人傑作選1 世界の果てまで行きたいぜ!」という本が出てきた。これは貴重だ!『旅行人』の歴史を知った今読み返すと、いっそうオモシロいだろう。

思えば私の青春時代と重なる90年代、よく海外旅行に出かけたもんだ。休暇は長くても10日間だったので、もちろん蔵前さんのように、バックパッカーとかは無理なんだけど、いわゆるフツーじゃないところに、いろいろ行った。ネパール、エジプト、トルコ、ケニア、メキシコ…。インドも興味はあったんだけどね~、トランジットで立ち寄ったときに水でやられてから尻込みしてしまって、まだ旅はしたことがない。「価値観が変わる」という声は、よく聞きます。

この本を読んでみると、私がよく出かけていた90年代は、今思うと、きわめて世界が平穏で旅行がしやすい時代だったんだってことがわかる。エジプトやトルコは、今ならちょっと行けないものね。幸せだったんだな~、しみじみ。

知られざるバックパッカーの世界は、超ディープです。そしてそんな世界に生きている人が思いのほか多いのにも驚いた。(今の若者は、どうなんだろ?)世界のいろいろな街の旅人向けの宿に、日本人が集まって情報交換できる場所がそこここにあるとは。人間は本来、一人で何とかする強靭さと、生きるために人とつながるしたたかさを持ち合わせているものなのだな、と感心する。そして自分もそんな力を持てる、発揮できる人でありたいな~と思うんだ。フィールドが「世界」っていいなあ!

ちょっとご無沙汰している海外旅行、億劫にならないうちに、また出かけたいものだ。そして、旅人が心配なく出かけられる平和な世界であってほしい。 

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高いゼ!大阪芸大スカイキャンパス

2014-03-15 | ギャラリー

日本一高いビルとして話題の「あべのハルカス」。こちらの16階には、本格的な都市型美術館である「あべのハルカス美術館」が開館するのですが、オープニングの「東大寺展」は3月22日から。お楽しみはもう少し先ですね。

ここには、他にもアートを楽しめる場所がありました。大阪芸術大学がサテライトキャンパスをオープンさせており、ただいま「大阪芸術大学グループ 卒業制作選抜展」を開催中。24階からの眺望も楽しみに、訪ねてみました。

なかなか広いスペースです。パンフレットによると、窓に面した素晴らしい眺望を眺められるセミナールームとのことですが、きょうは展示会場仕様なので、当然ながら壁で隠れていました…。

さて、肝心の展覧会、このような学生さんの作品を見る機会はあまりないんですよね。作品は多彩でした。しっかりした油彩もあれば、写真、映像、染織、絵本、ガラス工芸、プロダクトデザイン、建築まで!!選抜展なだけあって、どれもこれもオモシロい作品ばかり。若い感性で、柔軟に発想されたアイデア。あまり理屈をこねることなく、「どうだ!おもしろいだろう!」って気持ちをまっすぐにぶつけたような作りっぷりがまぶしい感じでした。

昨年、芸大の学生さんと接触する機会があったのですが、驚きましたもんね~。皆さん、単に絵がうまい、デザインの技術がすごい、ってだけじゃなく、それを仕立てる企画力みたいなもんもみっちり鍛えてる感じで、さらに、自分の感性に確固たる自信を持ってて…。この子らの学生生活、充実してたやろな~!と感心したものです。

素敵な作品を見せてくれた学生さんたち、この先もまっすぐな感性を持って、豊かに生きていってもらいたいなあ!と心から思いました。 今週末、3月16日(日)まで。

※写真は、60階の展望台からの夜景です。ピンクに光ってるのは通天閣だよ!

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幻想の画家ダリとフランス近代絵画の巨匠たち ~諸橋近代美術館コレクションより~

2014-03-06 | 展覧会

ただいま、わがホーム・ミュージアムである滋賀県立近代美術館では、タイトルの展覧会を開催中。諸橋近代美術館は、福島県の裏磐梯の美しい自然に抱かれた、ヨーロッパのお城のような美術館。世界でも屈指の約350点のダリ・コレクションを誇る他、ヨーロッパ近代美術の作品群も充実しています。

そのコレクションをお借りして実現した本展、前半は印象派からシュルレアリスムへ向かうヨーロッパ近代絵画の流れを、後半はダリの油彩画、水彩画、版画、彫刻など、多彩で多才な芸術活動を紹介しています。チラシは「ルノアール」ですが、メインはやっぱり「ダリ」ですね。

元々美術館を志向しておられたのかはわかりませんが、個人のコレクションらしく、中ぶりの優品が数多く見られます。展示作家も、ルノワール、セザンヌ、マティス、ピサロ、ピカソ、ゴッホ、シャガール、ミロ…(それ以外にも!)と、オールキャスト!かつて滋賀の美術館にこれほどの作家の作品が集まったことがあったでしょうか…。ヨーロッパ、特にフランスの近代美術を概観するには、とても良い機会となります。

ピカソの若き日のエッチング、藤田嗣治のメキシコで描いた水彩が、私の心に残りました。地味な作品ではありますが、線の美しさと技の素晴らしさを味わえます。ホント、うまいですわ~!!

さて、後半のダリですが、これほどまとまったコレクションを見るのは実は初めてです。あの髭がビヨーンとなった肖像写真からも奇妙な作家という印象が強いです。あの有名なグニャリとなった時計の作品はもちろんないですが、何と!それを立体化した彫刻作品が出品されていました。ブロンズでできているのに、ホントにやわらかそうで不思議、とっても触りたかったです。

シュルレアリスムの代表的な作家であるダリは、心象を映し出すような幻想的な作品を数多く残していますが、同時代の心理学者フロイトの影響を大きく受けているそうです。油彩の作品は、色もはっきりしていて明快な作品が多かったです。(テーマは難解ですが…) 興味深かったのは、「カルメン」「ドン・キホーテ」などの挿絵として描かれた組作品の版画たち。筆をたたきつけるような画法が迫力あっておもしろいな~と思いました。表現も多彩で見ていて楽しいです。

もっといろいろとバックグラウンドを知りたくなる不思議な作家でした。これだけのコレクションを築かせてしまう底知れない魅力があるのでしょうね~。

3月30日(日)まで。ぜひたくさんの名品たちに会いに、春の訪れを感じられる緑多き美術館まで足をお運びくださいませ!!

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「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」

2014-03-02 | 展覧会

本展覧会は、ウォーホルの没後25周年の2012年からスタートし、アジア5都市を巡回してきた、アンディ・ウォーホル美術館の所蔵品400点による最大規模の回顧展です。断片的には、いろいろな展覧会で作品を見ることはあったけど、これほど彼の生涯を網羅し、多くの代表的な作品や未知の作品を見ることのできる機会は、この先も滅多とないでしょう。

森美術館を訪れたのは、午後8時も過ぎたころ。夜10時までやってるなんて、さすが都会の美術館!けっこう若い方からビジネスマン、年配の方まで、バラエティに富んだお客様でいっぱいでした。

展覧会は時系列に展開されています。最初のコーナーでは、ウォーホルの幼いころとか、まだウォーホルになる前の若き日の写真があって、興味深かったです。日本にもツアー(?)で来たことがあったようで、「はとバス」の記念写真に写ってたのはびっくりしました。

まずは、私のお気に入り、彼が広告用イラストレーターとして活躍していた頃のドローイング作品がいっぱい見れます。今回改めて知ったのですが、作品の特徴である「ブロテッド・ライン(しみつきの線)」、あらかじめトレーシングペーパーのような紙に描いた線を、別の紙を押し当てて写し取ります。それによって、にじんだような味のある線描となっていたのです。すごーく手間も時間もかかるであろうこの描き方、そこに自身の個性を表現しようとした若きウォーホルの心情を思ってしまいます。

イラストレーターとして成功をおさめたウォーホルは、いわゆる「純粋芸術」を志すようになります。そのスタートが有名な「キャンベルスープ缶」。私たちがよく知っている作品にたどり着くまでの、試行錯誤の途中経過作品を見ることが出来て興味深いです。ここから先は、おなじみの作品が目白押し!「死と惨禍」シリーズは迫力ありました。ジャクリーン・ケネディ、マリリン・モンロー、エルヴィス・プレスリーなど有名人の写真をもとに作られた作品も、キャンバス地に刷られたものは、絵と写真の狭間にあるようでした。彼は確かに、誰にでも再現できるような手法で、彼にしかできない作品を生み出していたのです。

その次のコーナーから、やや混沌としてきます。会場に再現されたウォーホルの制作スタジオ「ファクトリー」。全面が銀色だったそうで、落ち着かない~って感じです。そこに流れている音楽も騒然として神経安まらなそう…。この頃は、前衛的な映像作品も多くつくっており、さまざまな芸術分野とそれを取り巻く大勢の人たちが混じり合った、まさにアンダーグラウンド・カルチャー・シーンを牽引する存在だったのでしょう。「そういう存在だったのだ!」ってことはよーくわかりました。

70年代以降の作品は、若干精彩が失われたように思いました。多くの肖像画は売上のために描かれたということだし、おもしろい作品もあるのだけど、なんだかアイデアは凡庸で。若きグラフィティ・アーティスト、バスキアとのコラボも、話題にはなると思うけどクオリティはどうなんだろ~って感じでした。ウォーホルとしても、新しい創造に対するもがきがあったのかもしれません…。

最後のコーナーは「タイム・カプセル」。ウォーホルはプライベートな手紙、書籍、雑誌、雑貨等々、毎日の生活の中で目にするあらゆるものを「タイム・カプセル」と称した段ボール箱にしまっていたそうです。その中の一部、日本に関連するものを中心に展示されていました。一説によると、彼は整理がヘタで物が捨てられなかったとか…?そこには共感する~!!

ウォーホルについては、以前、「ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡」という本も読んだりして、けっこう予習していたつもりだったのですが、実際に彼の作品を時系列に眺めていくと、ますます彼のことがわからなくなってしまいました。アーティストの個性を消し去って、ビジネスとしてのアートを追求したと言われていますが、作品を見る限りはそうではない、やはりそこここに自らの個性の発揮を試みていたのではないでしょうか…。だって、あんなにじんだ線をわざわざ作った彼なんですよ?

彼自身がいっぱいに現れた作品を見せながら、決して「わかった」気にはさせない、そこにこそウォーホルの真髄があるように思いました。昨年、開催されていた「ポップ・アート展」を見ていれば、もっと他のアーティストとの関係性や時代背景の中で、ウォーホルがどんな立ち位置にいたのか?ということもわかったかもしれませんね。今回は、「ウォーホル、集中!」です。

80年代の香りを知っている私たちの年代と違って、今の若い世代の方はどのようにウォーホルをとらえているのか?ということに興味がわきました。夜間だったからかもしれませんが、展覧会の看視スタッフのほとんどが若い大学生風な方で、作品や観客に無関心で眠そうな様子がおもしろかったからです。

5月6日(火)まで開催。会期中無休、火曜日以外は夜10時まで!スバラシイ!!

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