アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

フランシスコ・ベーコン展(豊田市立美術館)

2013-07-16 | 展覧会

  

ベーコン展を見に、はるばる愛知県は豊田市立美術館へ行ってきました。(名古屋から遠かった!)ベーコンの作品は33点って少ないようで、実は三幅対の作品がたくさんありましたので、思いの外充実の展覧会でした。そうメジャーではないように思うのだけど、けっこう老若男女、多くのお客様がおいででした。確かに滅多に見れない機会。

一番興味を持って見たのは、絵具の痕跡。あの不思議な歪んだ像を描き出すのに、どんな筆跡が見れるのだろうか…?と。ものすごい疾走感で絵具を塗り重ねているようでいて、でもとても緻密に組み立てられているようで…、だってその走る筆が描かれる人物に動きをもたらし、まさに「生きている」姿を描き出しているから。

掲載しているチラシの「ジョージ・ダイアの三習作」もとてもよかったし、同じく顔をとらえた「ルシアン・フロイドの肖像のための三習作」もよかったな。表情がすごい豊かだった。

会場では、ベーコンの絵画に触発されたダンサー、土方巽などの映像作品も見ることができた。確かに肉体を操るダンサーが、動きをたしかめてみたくなる身体の様相がいくつも描かれている。人間って「肉」なんだなあ…としみじみ実感。

ベーコンの作品は、暗いイメージでしたが、確かに初期の作品は、背景が黒っぽいものが多かったのだけど、晩年の作品は背景に明るくきれいな色が塗り込められているものが多かったです。ピンクの三幅対など、甘いでもなく可愛いでもなく濁ってもおらず、何とも言えない色でした。

展覧会場で、ベーコンの作品のガラス面に対するコメントが掲示されていたのが大変興味深かったです。ベーコンは、作品と見る人の間をガラスで隔てることを理想としたそうです。「反射して見にくいことはわかっているけれど」と。その中で、いくつかガラスで覆われていない作品がありまして、それを見ていると、ベーコンの筆跡、ベーコンがあらわした色彩がとても露わになっていて、なんだか見ているこちらが、見てはいけないところまで見てしまったような、気まずいような気分になってしまうのが不思議でした。おもしろいですよね~。

また、会場の冒頭には、ベーコンが写っている映像が上映されていました。お~、動画で初めて見ることができました。あの凄いアトリエで描いている様子も。動きしゃべるベーコンは、う~ん、やっぱり?不思議な雰囲気をたたえている人でした。すごく繊細な人だったんだろうな。

とても貴重な展覧会、じっくり見ることができてよかったです。9月1日(日)まで。いつか海外の美術館で、もっといろいろなベーコン作品に出会えると嬉しいな!

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フランシス・ベーコンについて(展覧会の予習)

2013-07-10 | メディア情報

 

愛知県の豊田市美術館で始まっている「フランシス・ベーコン展」。7月中には訪ねるつもりなので、そろそろ予習スタートです。

フランシス・ベーコンの作品は、1点は実物にお目にかかっている。10年以上前、確か東京で見た展覧会の出口近くに突然現れたその作品が、あまりに負のイメージ(恐怖なんだろうか?)に満ちた暗い作品で、人物の顔が判然とせず(つぶれているのか?)、ちょっと衝撃を受けた覚えがあります。哲学者にも同じ名前の方がいらっしゃるから、名前と印象は深く刻まれたのだけど、その後滅多と出会う事はありませんでした。そのベーコンの作品がこれだけまとまって国内で見ることのできるめったにない機会。

まずは録画していた日曜美術館を見ることに。噂には聞いていたが、大江健三郎さん、デヴィッド・リンチ監督、浅田彰さんと、ゲスト陣がいつになく豪華だな~。デヴィッド・リンチが人間の深く暗い内面を描くベーコンの魅力を語るのに対し、大江さんはすごく前向きなメッセージをベーコンの絵から受け止めておられ、全く両極な捉え方に、やはり見る人にさまざまなイメージを与えるのだなあと感じました。

フランシス・ベーコンの作品は、本当に今まで見たことのない、唯一無二の絵だと改めて思います。

さすが、テレビ番組だ、とおもしろかったのは、フランシス・ベーコンがモデルにしていた若き恋人のジョージ・ダイアーを、映像で見れたこと。動くダイアーの顔は、まさしくベーコンの描く肖像画そのものでした。あの歪んだ感じこそが、生きている彼をあらわしているというのには、深く同意。

あと、ベーコンの描く絵具には、砂や繊維などいろいろなものが混ぜて独特の質感をもたらしている、また、キャンバスの表面処理のされていない裏側を使用することで、やり直しのきかない筆の運びにスピード感とエネルギーがあふれている、という情報も大変興味深かったです。実際に絵の表面をじっくり眺めるのもとても楽しみ。たぶん、印刷物ではその作品の迫力と美しさは半分も伝わらないんじゃないかな。

それにしても、1992年まで生きてらしたというのに、テレビ番組に映像や肉声がひとつもない、というのも不思議に思えますが、ベーコンは生前はバイオグラフィーも徹底して出すことをせず、セルフイメージをコントロールしていたというのです。

これは、『美術手帖』3月号のフランシス・ベーコン特集で語られていました。いろいろな記事がある中で、一番おもしろかったのは、ベーコンを研究されていて、今回の展覧会の企画者でもある東京国立近代美術館の学芸員である保坂さん、桝田さん、それから美術ジャーナリストの藤原さんの鼎談。皆さん、ベーコンの作品、ベーコンというアーティストに深い思い入れがあるようで、何というか表面的ではない本当によく知った親しみ深い人について語り合っているようで、読んでいてすっごく楽しかったです。

早く作品たちに対面したいです。楽しみだな~!!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミリキタニの猫

2013-07-05 | 映画

京都の立命館大学国際平和ミュージアムで、「ジミー・ツトム・ミリキタニ回顧展」が開催されている。そう、映画「ミリキタニの猫」で取り上げられていた日系アメリカ人画家の作品展だ。見に行ってみたいけど、ちょっと日程的に無理かな~?昨年10月に92歳で亡くなられたことを知ったのはつい最近だった。

映画「ミリキタニの猫」はすごく良かった。その年の映画マイ・ベスト1に輝いたくらい。ミリキタニさんも、この映画のおかげでずいぶんと人生に変化が訪れ、苦労もされたけどいい人生を終えられたんじゃないかな。当時、レビューを書いていたのでここで紹介いたします。

 

『ミリキタニの猫』 (2008年/監督:リンダ・ハッテンドーフ / アメリカ)

ニューヨークの路上アーティスト、日系アメリカ人であるジミー・ミリキタニを、アメリカの女性監督リンダが追ったドキュメンタリー。

2001年、ミリキタニは80歳。韓国人が経営するデリの軒先で路上生活をしながら絵を描き続けている。寒い最中、毛布をかぶり「平気だ」と言う。背中も曲がってこのままのたれ死んでしまうんじゃあ、と思ってしまうほど。

彼にとっての転機は、9.11。騒然とするニューヨークの路上で平然と絵を描くミリキタニを、この女性監督が「家にこないか」と誘うのだ。

監督とはいいながら、彼女は立派に重要な登場人物だ。ミリキタニと彼女の会話がいい。互いに気兼ねも気負いもやさしさの押し付けもなく。本当に昔から分かり合えている親戚同士?のよう。ついこの間出会ったばかりなのに。

だんだん、ミリキタニが居候なのに偉そうになっていき、リンダがいらつくもんだから観ているこちらはハラハラ。でもそんなことはたわいもないエピソードだ。

アーティストとして兵隊になることを拒否し、広島からアメリカに戻ってきた(元々カリフォルニア生まれ)彼は、戦争によって日系人収容所に入れられ、姉とも生き別れ、つらい体験をしてきた。日本の芸術を広げるという大きな夢を持っていたのに、市民権を棄てることまで強要され、彼は以来アメリカを憎み続けている。社会保障だって受ける気は、さらさらないのだ。9.11によりアラブ系への風当たりが強くなるのを、ミリキタニは苦い思いで見つめる。彼のそんなアメリカに対する罵倒を、本当にナチュラルに受け止めるリンダが、なんというか、スゴイ。

そして、リンダの尽力により、ミリキタニは市民権を回復していたことがわかる。年金を支給され、住むところも見つかった。頼まれて絵を教えたりもするようになった。ミリキタニは、だんだんキレイで表情が豊かなおじいさんへと変わっていく。

生き別れた姉も見つかり電話で話す。久しぶりの日本語なのか、言葉が出てこない。素っ気ない会話のようで実は感動に満ちている。電話を切ってから会話の様子をリンダに伝えるのに、興奮してもう日本語が止まらない…。

最後のシーンは、ミリキタニが60年ぶりにかつて送られた収容所を訪ねる。そこで亡くなった、かわいがっていた少年を弔い、いつも描いていた山を再び描く。彼の心の重いものが少しずつ浄化されていくのがわかる。表情は晴れやかだ。

エンディングでは、お姉さんと再会でき、さらにHPを見ると、広島への帰郷も果たしたとのこと。なんだか壮絶な人生ではあるが、ハッピーエンドで本当によかった。そうそう、猫はもちろんこの映画にピリリと効いてます!

(2008年3月 滋賀会館シネマホールで鑑賞。なつかしいな~) 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする