アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

世界一美しい本を作る男 ―シュタイデルとの旅―

2013-10-31 | 映画

ついに大阪で上映が始まったこの作品、12月に京都・みなみ会館でもやるらしいのですが、やっぱりガマンできなくて、見に行っちゃいました。

「本」って大好きなんですよー!用の美といったらいいのでしょうか?決まっている形なんだけど、無限の可能性を秘めている、中味もひっくるめての総合芸術だと思うんですよねーー。こんなアタシが見ずにおれましょうか、この映画!

ドイツの小さな出版社を経営するゲルハルト・シュタイデル。彼は世界の多くのアーティストから絶大な信頼を受け、彼らとともにまさに“作品”といえる本をつくり出しています。依頼主とは直接会って打ち合わせすることをモットーに、ロス、ニューヨーク、カタール、パリ…と全世界を飛び回る。それが彼の日常であり、その非日常的な日常を淡々と追いかけたドキュメンタリー。

シュタイデルが依頼主のアーティストと制作の段階で交わす会話が、ものすごくエキサイティング!相手はアーティストだけど、いいものを作る信念のもと、自分のアイデアも積極的に伝え、押すとこは押し、委ねるとこは委ねるという、そのさじ加減が誠に素晴らしい。ニューヨークの写真家、ジョエル・スタンフェルドと「iDubai」という本の装丁を決めていく過程は、ホントおもしろくて、ワクワク興奮しましたヨ。あの本、手に取ってみたいな~。

また、ノーベル賞作家、ギュンター・グラスに、「ブリキの太鼓」50周年記念の本のタイトルを筆文字で書かせる場面では、その書きぶりをすごく冷静で厳しい目で見ていて、それでいて最後に自分の名前も書かせたりして、作家との信頼関係の強さと彼のおちゃめぶりも垣間見た気がしました。

いつも白い上っ張りを着ていてセカセカと休みなく働くさまは職人らしいのだけど、依頼主たちと交わす会話、本についてのコメントのひとつひとつはまさに芸術家が語る珠玉の言葉。五感で味わう形、紙の手触り、型押しの窪み、色味、そして紙とインクの匂い…。電子書籍なんかには替えられない、「本」の存在感がそこにある。

小さくて素敵なパンフレットも購入。そこに載っていたゲレオン・ヴェツェル&ヨルグ・アドルフ監督のプロダクションノートによると、シュタイデルは印刷所での仕事も打ち合わせの旅も好きなだけ撮ってくれたらいい、と言ったそうです。思うに、監督さんらはあまり「本」への思い入れはなかったのではないかな?もし本フェチなら、もっと本を美しく撮ることも考えたと思うんですよね~。それはあまりなかった。あくまでも美しい本をつくるシュタイデルという人物が描かれているのだと思いました。

シュタイデルの本、この映画の上映に合わせて特集を組んでいる書店もあるようです。ぜひぜひ、いろいろな本を手にとって見てみたいものです。

梅田ガーデンシネマで、11/8(金)まで上映です。う~ん、京都も行っちゃうかも!!

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神戸ビエンナーレ2013

2013-10-24 | 展覧会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生憎の雨でしたが、「神戸ビエンナーレ2013」に行ってきました。今、阪神地区では「六甲ミーツ・アート」というイベントも開催され、そちらが山とすれば、神戸ビエンナーレは海が舞台。

まずは「船に乗るべし!」 、メリケンパークからスタートです。

船の乗船時間までの間にコンテナアートを見ました。会場には60ほどのコンテナが立ち並び、そのひとつひとつの中でいろいろなアートが繰り広げられています。日本の作家、中国や韓国の作家、創作玩具、生け花、コミックイラスト等、テーマはバラエティ豊か。やはりあの細長く閉ざされた空間を生かすべく、映像作品がけっこう多かったように思います。短い時間でたくさん見たので、あまり覚えてないのだけど、4番「Aqua Room」、14番「歯車の万華鏡」などがおもしろくて印象に残りました。発想が斬新で楽しかったな。

いよいよ、遊覧船から「海上アート展」を眺めます。船から見ることのできる作品は6点。どうしても離れた岸の作品を通り過ぎながらの鑑賞なので、じっくりは見れません。カメラを準備してるうちに過ぎちゃった…みたいなことも。しかしながら、ここからはもっとおもしろいものが見れます。川崎重工の造船所では巨大な外国船を、そして三菱重工の造船所では、なんと!映画にでてくるような潜水艦をつくっている?のを見ることができました。めちゃくちゃ迫力あって思わず興奮!すごいわ~、カッコええわ~。

次に向かったのは灘あたりの美術館エリア。ここでの鑑賞の中心は、何といっても「横尾忠則」。旧兵庫県立近美が「横尾忠則現代美術館」へ新装してから初めての訪問です。入口のたたずまいは変わりませんが、中はモダンな白い空間に生まれ変わっていました。この美術館では、横尾さんの作品をいろいろなテーマで展示しているのですが、今回は「肖像図鑑」と題し、俳優、作家、ミュージシャンなど、時代を彩るスターたちのポートレイトが特集されていました。なので、比較的小さい作品が多かったです。日経新聞に連載されていた瀬戸内寂聴さんの「奇縁まんだら」のなつかしい挿絵も一堂に。対象人物の特徴をとらえ、多彩な技法で描かれていて、やっぱうまいわ~と感心しきり。イッセイミヤケのパリコレの歴年の招待状が、おしゃれで時代を反映しているようで、良かったです。

さて、もうひとつの横尾さんの展覧会が、兵庫県立美術館でも開催されています。こちらは「感応する風景」と題し、風景画をテーマに展示されていました。展示作品の中心は、横尾さんが雑誌の連載で、実際に日本中を旅して描いた「日本原景旅行」と、2000年以降の「Y路シリーズ」。こちらの展覧会は、けっこう大きい作品も多く、「Y路シリーズ」も数多く見ることが出来て、改めて横尾芸術を堪能することができました。

また、兵庫県立美術館では、常設展もかなり楽しめました。まず「信濃橋画廊コレクション」。大阪市西区にあった信濃橋画廊は、現代美術を志す若者の自由な作品発表の場として、また美術関係者の交流の場としてユニークな活動で知られていましたが、2010年に惜しまれて閉廊。画廊主だった山口勝子さんが収集されていたコレクションを、兵庫県美に寄贈されたとのことです。FRP彫刻の福岡道雄さんの若き日の作品などもあり、やはり画廊ならではのこぶりな作品が多かったものの、バラエティに富んでいて、とても見ていて楽しかったです。

あと、「手で見る造形 近いかたち、遠いかたち」という展覧会も行われていました。これは文字どおり、作品を手で触ることのできる珍しい展示でした。もちろん、触る前には、厳重に手を清めることを求められます。見るだけだと自分と作品のあいだには、どうしても越えられない壁があるのですが、触ることで作品と一体になれるような気がします。作家がかたちを造り上げたその手の感触を確かめられるように思うのです。同じ彫刻でも、木や陶、鉄…と、その素材感の違い。これも大変おもしろかったです。

「神戸ビエンナーレ」は、この他にも、元町高架下の「ペインティングアート展」や「まちなかアートギャラリー」など、今回は行けなかったけれど、まだまだ興味深いところがいっぱい。12月1日までやっていますので、秋の1日を神戸で楽しむのもよいのではないでしょうか。

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藤田嗣治 手しごとの家 (林 洋子)

2013-10-19 | 

 藤田嗣治手しごとの家 (集英社新書ヴィジュアル版)

この本、新書版なのですが、「集英社新書ヴィジュアル版」ってことで、カラー図版や写真がとっても豊富で、読んでいて(見ていて)ホントに楽しい一冊です。

藤田嗣治という作家がとても素晴らしいな~と改めて思ったのは、2009年に上野の森美術館で「レオナール・フジタ展」を見たとき。その展覧会は、幻の群像大作の連作を中心に、初期の作品から晩年の宗教画まで、藤田の生涯を追った大規模なものだったのですが、その中で、私の印象に特に残ったのは、「ラ・メゾン=アトリエ・フジタ―エソンヌでの晩年」というテーマの作品群。君代夫人と最晩年を過ごした小さな住まいには、藤田が自らの手で作り上げた家具や食器や小物など、思わず「カワイ~」と言ってしまうようなモノたちがいっぱい、美術界の大御所ともいえる藤田の、その手仕事ぶりに感心したものでした。

この本は、まさにその藤田の手仕事ぶりを紹介した本です。読んでみると、藤田は大工仕事だけでなく、布に対する執着もあり、裁縫などもこなし、自分の服を自分で縫って作っていたことが紹介されています。家のインテリアにはすごいこだわりがあり、フランスの最後の家だけではなく、日本で日本家屋に住んでいたときの絵や写真などを見ていても、こだわり抜かれています。(さぞかし、お金もかかっているでしょう…)

藤田の肖像写真を見たときのスタイル(おかっぱ頭、丸メガネ、ちょび髭…)も独特ですが、ライフスタイルすべてにおいて、自身のスタイルを貫いていた人なのだなあと改めて感心しました。美術の本場、フランスで賞賛されたこの美術家を、同時代の人たちはどんな風に思っていたんでしょうね~。

この本の最後の章は「書く」。藤田は、日記をこまめに付け、その他にも日々の食事や買い物などいろいろな記録を実に詳細に残しているそうです。また、本の中では、藤田が君代夫人や友人に送った絵手紙も掲載されていて、それがまたユーモラスでおもしろいんです!これらは、君代夫人が藤田の死後も40年にわたって手元に大切にとっていらしたもので、今後の保存と研究による、新たな藤田像の解明が期待されているとのこと。著者の林洋子さんは、「書くことも、藤田の手しごとだった」と書かれています。

林さんの文章は、大変読みやすく美しいと思いました。想像ではありますが、暖かなお人柄で、きっと君代夫人の信頼を得ておられたんだろうな、と感じました。

先週までBunkamuraで展覧会やってたんですね~、「小さな職人たち」見たかったなー!!藤田嗣治、レオナール・フジタにはこれからも新しい出会いがありそうな気がします。

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カイユボット展

2013-10-15 | 展覧会

東京に行く機会がありましたので、ブリヂストン美術館の「カイユボット展」に行ってまいりました。初めて訪れたブリヂストン美術館は、東京駅から徒歩5分ほど、都会の真ん中のビルの中にある素敵な美術館でした。従業員もたっぷり!いらっしゃって、さすが民間の美術館は余裕あるな~って感じです。

ギュスターヴ・カイユボット、印象派の一人ですが、あまり有名ではないですよね。名前は知っていました。以前に展覧会で作品を見たことがあるのかな…?今回、彼についての情報をいろいろ読んでみると、印象派を支援した人として、大変重要な役割を果たしていたことがわかりました。かなり経済的にも豊かで、他の印象派の画家たちとは一線を画していたのかもしれませんね。近年は画家としての作品の再評価がなされているとのこと、回顧展も今回が日本初の開催です。

印象派といいながら、けっこうしっかり写実的に描かれている作品たちは、どちらかというと、マネとかのように印象派前夜…という印象を受けました。しかしながら、描いたテーマは、その時代ならでは。改造によって変貌していく近代都市パリの風景や風俗を、明快な画面構成と明るい色彩で描きあげました。

一番よかったのは、チラシにも掲載されている「ヨーロッパ橋」。サン=ラザール駅の上にかかる鉄橋の、この巨大な鉄の人工物の堅牢さとデザインの正確な美しさにとても存在感があり、またこの作られたばかりのまっすぐな道を強調かするような遠近法がとても印象的です。全体的に青みがかったグレイッシュな画面が清楚で、空の青さと日差しの強さから、とても明るい印象を受けました。描かれている人の表情ははっきりはわからないのだけど、それぞれの身なりやポーズから、その人の人生が垣間見えるような…。

展覧会では、画家の弟のマルシャルの、家族や風景を撮った写真も多く展示されていました。カイユボットの作品には、「上から見下ろした大通り」のように、通りの街路樹を上から俯瞰した、とても斬新な視点で描かれた作品もあり、写真との関連も論じられているそうですが、直接マルシャルの写真に影響受けたり、自分が写真を撮ったりという形跡は見られないらしい。むしろ、後の写真家に影響を与えたと言われているそうです。

パリ近郊の風景や、ボート漕ぎなどの作品も素敵でしたが、私は人とともに描かれたパリの都市の姿に心惹かれました。何といっても、今回はさすがに来日していなかった「床削り」を見てみたいですね~。

カイユボット展は始まったばかり、12/29(日)まで。

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電子書籍 雑感

2013-10-08 | その他

昨今のスマートフォンの普及は目覚ましいものがあり、どうでしょう?今や7割くらいの人がスマートフォンをお持ちのような感覚があります。それに比べて、電子書籍の普及はそれほど進んでいないような気がします。アメリカなどでは、相当に広まっていると聞きますが…。

とはいえ、スマホでもkindleのアプリ等で、電子書籍を読むことができるようになりました。けっこう近代の名作などが無料で入手できるので、今さらわざわざ買うのもなあ~という作品をいくつかダウンロードしてみましたので、少し感想を書いてみたいと思います。

まずスマホなので、画面が小さい!文字の大きさは拡縮ができますが、一画面に入っている文字があまりに少ないと、なんだか本の体を成していない気がして、読みにくいです。あと、やっぱり読書って、「本」という形をもつものが含んでいる文字を辿る過程なのかな…ということを改めて認識。電子書籍の、いったい今どれくらい読んでいて、あとどれくらいページが残っているかを確認できないのは、なんだかツライ。電子画面に、「いま〇%」「読み終えるまで〇分」とか出るんだけど、どうもなあ…。

あの小さな機器の中に、何冊も本が入ると思うと、便利とも思うのですが、使い慣れるにはまだまだ時間がかかりそう…。

さて、昨日、日曜美術館で高村光太郎の特集をやっていましたね。私にとっては、詩人の印象が強かったものですから、彼自身が自分のことを「彫刻家」だと言っていたことは今回初めて知りました。知っているようで、よく知らない人だったんだなあ。

ゲストの平野啓一郎さんが、智恵子抄について話していたので、思わず電子書籍(¥0)をダウンロード。有名な「あどけない話」や「レモン哀歌」などの詩作の他に、「智恵子の半生」という散文がとてもグッときました。これは光太郎が最愛の智恵子を失ったあと、智恵子という一人の女性の半生を留めておこうと、二人の軌跡を赤裸々に綴ったもの。智恵子には自分の好きなように自由に生きるというような幸せはなかったが、光太郎との関係はとても崇高で理想的なものだったのではないかと思いました。

このように機動的に本を手に入れることができるのは電子書籍の利点ですね。先日も宮崎監督の「風立ちぬ」を見た後、これも衝動的に堀辰雄の「風立ちぬ」をダウンロードして読んでみました。映画作品が多面的に広がる気がします。こういうのはよいなあ!

以上、電子書籍の感想でした。あと数年もたてば、どんな存在になっているのでしょうねえ~!!

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夭折の画家・石田徹也(日曜美術館)

2013-10-01 | メディア情報

この前の日曜美術館、画家・石田徹也が取り上げられていました。

現在、足利美術館で展覧会が行われているとのこと。実物の作品にはお目にかかったことがないです。何年か前にテレビ番組で知ったのだと思います。最初見たときは、衝撃がありましたね。

改めて作家の情報を見てみると、若かったんですね~。ほとんど同時代の人。何となく作風から(蟹工船的?な…)もう少し昭和の人のように思っていました。画集の表紙にもなっている、飛行機人間の絵「飛べなくなった人」が印象的。その他にも、今回、番組で取り上げられていた作品を見ても、何というのでしょう…すごく象徴的に人間社会の哀しみ、のようなものを描いているのだけど、表現はきわめてユニーク。

写実的で、登場人物の表情もけっこう無表情なので、ちょっとコワイようにも思ってしまうのですが、今回、一緒に展示されているという、また最近本になったという、彼のアイデアノートを見ると、また違う印象を受けました。本当に絵が大好きで、しかも発想が豊かでユニークで、そのアイデアをすぐ絵にしたくって、そんな風に生まれた絵なんだな~、と。

番組では、この絵に共感するたくさんの人のメッセージが紹介されていました。でも、私は何となく絵が大好きだった彼を、現代社会に苦しむ人々、生きにくい人々の代弁者のようにはとらえたくないなあ、と思ったのでした。

実際の作品を見たら、きっとすごく力があって、衝撃(ホントに)をドンと受けるのじゃないか、と想像しています。展覧会で、ぜひ、たくさん見てみたいなと思いました。

日曜美術館の再放送は、来週10/6の夜8時から。

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