アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

近代洋画の開拓者「高橋由一」@京都国立近代美術館

2012-10-22 | 展覧会
まさに、日本一有名な「鮭」!を見に行ってまいりました。

本日が最終日、思ったより混んでましたね。そしてまた、客層が案外幅広く(老いも若きも)かつ中高年の男性が目立っていました。
みんな、同じ気持ちなんでしょうか?教科書で見たあの「鮭」、やっぱりこの眼で見ておかなくっちゃ!というような。私もかくいう一人…鮭もですけど「豆腐」を見ておかなくてはいけない気持ちになったんですよね~。

「鮭」は有名ですけど、高橋由一のことはあまり知りませんでした。黒田清輝などとは違って外国に行くことなく、つまり西洋画ではなく、日本の洋画を開拓した人だったのです。

彼にとってのポイントは「写真」だったのではないでしょうか。由一は絵画の使命は記録すること、油絵は耐久性にも優れ写真よりも後世に記録を残すことに適していると考えました。明治に入り、さかんに使われるようになったであろう写真に対し、油絵の優位性にこだわっている印象を受けました。けっこう絵の元になっているのは写真だったりするんですよ~。例えば単なる建物の写真に人々を描き加えて街の賑わいや活気も表現しようとしたり、絵画だからこと表現できることを追求していたように思いました。

鮭をはじめ静物画や人物画が有名ですが、展示作品には風景画が数多くあり、私はけっこう気に入りました。浮世絵を参考にしているという、近くの木々を細密に描き、その向こうに遠景を描くという構図。空の描き方がすごく素敵だと思いました。特に夕暮れの少しオレンジに染まった空が、とても荘厳な雰囲気で良かった。光を受けて輝くような雲なども美しかったです。あのような描き方は、すごく西洋画っぽいな、と思います。カナレットとかそんな感じ?イタリア人のフォンタネージという画家に教えを受けた影響もあるのでしょう。

さてお目当ての「豆腐」は?…なんかしみじみした気持ちで見てしまいましたね~。西洋の技法を用いて日本独自の食べ物を、それも今まで日本画家も描いたことのないようなものを、実に忠実に写実しようとしているその真摯さを思って。食感とか触った感じとかも独特の素材ですもんね。日本人が見るのと外国人が見るのとでは、また受け止め方は全く違うでしょうね。

強い意思を持ってある意味、闘ってきた画家である高橋由一。彼に「これからは洋画だ!」と思わせた衝撃ってどんなだったんでしょうか。こういう人がいたから今の日本の絵画があるのだものね。彼の生きた激動の時代を重ね合わさずにはいられませんでした。

京都国立近代美術館のコレクションギャラリーでは、高橋由一展にちなみ「京の由一 田村宗立」展を開催。渾身のA2サイズのチラシ(何故にそこまで…!)は大きすぎて掲載できませんが、なかなか特異な作家であったようです。(インパクト強し)
こちらは28日(日)まで。

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織屋のぼんといく、西陣織工房めぐり ~まいまい京都~

2012-10-18 | その他
ディープな街歩きツアーで人気上昇中の「まいまい京都」に初めて参加してみました。まいまいとは?「うろうろする」という京ことば。

「西陣」って有名。でもなかなか個人的に観光に訪れたりってこともなく、その実何も知らなかったといっていい。和装ひとくくりに思ってたけど、西陣は帯だけを作っていると改めて知りました。しかも「織」の技術を追求した美しい織り柄の帯。
今回のガイドの冨家さんは、古くから西陣で織物を作ってこられた「とみや織物」の息子さん(本業は建築家)。家業だからこその、観光客向けではない、「西陣の今」を、実際に制作に携わっておられる職人さんたちを通して見せていただけました。

織について興味を持ったばかりの初心者には、いきなり最高技術の複雑な西陣織の制作方法を完全に理解するには無理がありましたが、あんな細かく美しい織り柄がどのように出来るかのだいたいはわかりましたし、気の遠くなるような細かくて正確な手技の積み重ねで出来ていることは、よ~くわかりました。
ポイントは綜絖といわれる経(たて)糸を引き上げる装置。織物を織るには、緯糸が通る杼(糸を巻きつけた器具)道をあけるため、経糸を引き上げねばなりません。昔はこれを織り機の上から人力でやっていたそうで、だから織屋の家屋の天井は高く吹き抜けになっていたそう。明治に入ってからは、ヨーロッパから持ち帰ったジャカード織りの技術を取り入れ装置も機械化、それに必要だった型紙も今はデジタル化されているとのことでした。

何となく志村ふくみさんのイメージから手染め、手織りを想像してしまっていましたが、染めも織りも糸繰りも、いろいろな現場が機械化されていました。でもその機械もけっこう古めかしくて(明治っぽい?)、やはり人の技術に頼るところが相当大きいのだろうなという印象を受けました。どの現場でも、働いている人が高齢で、この伝統の継承はどうなるのだろうか…と危惧してしまいました。

織物工場では、何と4日間かけて緻密に織られた帯地が完成した現場に居合わせることができ、ツアー客からの歓声と拍手に嬉しそうにされていた職人さんの姿を見て、やっぱりモノを創り出せる人って素晴らしいなあ~と思いました。

今回のツアーでは、単に織物の技術を見学したのではなく、「西陣」を通して京都の歴史や、日本における「キモノ」文化のあり方、伝統を受け継いで現代を生きる方々の誇りと苦悩、みたいなものなど、いろいろなことを感じることのできた貴重な体験だったと思います。

まだまだ興味深いツアーが満載の「まいまい京都」、またぜひ参加したいと思います。
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「バーン=ジョーンズ展」兵庫県立美術館

2012-10-11 | 展覧会
本当は先週行こうと思っていたのですが、台風が来たのできょうに延期。駅から美術館へ歩く距離はけっこうあるのでね~。きょうはぽかぽかの日だったので、とっても快適でした。

さて、「バーン=ジョーンズ展 ―英国19世紀末に咲いた華―」、いかにもロマンティックな展覧会でした。

ラファエル前派。19世紀半ばに、ロセッティ、ハント、ミレイの3人が、当時のアカデミーの古典偏重の美術教育に異を唱え、ラファエロ以前の中世や初期ルネサンスを模範とすることを掲げた結成された芸術グループです。その特徴は、中世の伝説や物語を絵画の主題とし、形式にとらわれない素朴で自然に忠実な表現であるといわれています。私の印象では、やたらと少女マンガ風な美男美女が描かれ、どちらかというと躍動感のない(場面が止まっている)、落ち着いた色調で描かれた幻想的な世界…という感じです。

バーン=ジョーンズは、ロセッティを師と仰ぎ、ウィリアム・モリスなどとともに、その系譜に連なる最後の巨匠といわれています。きっといくつかは何かの展覧会で見たと思うのですが、今回初めてバーン=ジョーンズという作家の作品を認識し、じっくり見ることのできた貴重な機会でした。けっこう習作とかスケッチ類も多かったのですが、「おお、これは!」という大作も何点か。

一番うっとりしたのは、やはり「眠り姫」。画面の大きな部分を占める緑色が深く上品な色合いで、文字通り画面全体がしっとりとした静謐に包まれているような、それでも花々は生命感を滲ませているような…そんな素敵な一枚。
それから「運命の車輪」。他の作品に較べると、「幻想の世界」というよりは、描かれている人物もしっかりした肉体で、哲学的な思想の深さを感じさせる素晴らしい作品でした。
また、バーン=ジョーンズが挿絵を描き、ケルムスコット・プレスでウィリアム・モリスが制作した美しい書籍も、実物を拝めてよかったです。どちらかというと文字と装飾の壮麗さの方が目立ってましたが…。本の展示は、そのページしか見れないのが残念だな~。ページをペラペラめくりたいもんです。

あの時代のイギリスで、上流階級に属する若き画家たちが、過ぎ去りし中世の時代に憧れその時代を取り戻そうとした心の動きというのは?なかなか共感して理解できるものではないのですが、興味はとてもあります。

あーもうすぐ終了ですね。10月14日(日)まで。


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