アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (宮下 規久朗)

2013-08-28 | 

 ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)

 現在、六本木の国立新美術館では、「アメリカン・ポップ・アート展」が開催されています。そして来年の2月には、森美術館で「アンディ・ウォーホル展」も予定されているとのこと。すっかりおなじみで商品として目にすることの多いポップ・アートが、また改めて美術館という場で見直されているのでしょうか…。

というわけでもなかったのですが、宮下規久朗さんの新書を読んでみました。マイ・ホーム・ミュージアムである滋賀県立近代美術館で、20世紀のアメリカ美術は主要なコレクションの柱であり、ウォーホルの作品もいくつか有しておられますので、解説にもよく登場いたします。

抽象表現主義の作品たちに較べて、ポップ・アートはわかりやすい…、でもそれだけに「何でこれがアート?」的に思われがちです。「大量生産・大量消費の象徴として…」という時代背景の説明も、昭和の高度経済成長期を知っている人には理解できるでしょうが、今の若い人にはどうなんだろう?新しい美術であった「ポップ・アート」も、もはや歴史の文脈の中で語られるものになってしまっているのね…と思ったりします。

さて、この本を読んでみてわかったのは、ウォーホルって実はけっこう社会的なメッセージを発する作品をたくさん作ってたんだなあ…ってこと(本人は否定していたそうですが)。あの有名なマリリン・モンローの作品も、彼女の死を知ってから取りかかったもので、「死と惨禍シリーズ」の一環らしい。死刑を象徴する電気椅子シリーズとか、公民権運動を取り上げた作品とか。ニューヨーク万博で「13人の指名手配中の凶悪犯人」の壁画を飾るっていったい…。

自らをビジネス・アーティストまたはアート・ビジネスマンと称し、徹底的に個人の手技の痕跡を消し去った作品を志向したウォーホル。でも彼の初期の頃のイラストは、本当に素敵で大好きです。どんなウォーホルの作品を見る時も、私の中では、あの素敵な絵を描くウォーホルが根底にあるような気がします。

さて、この本、こんなテーマながら、カラーページは全くないし、掲載写真は小さいし、「どーいうこっちゃ!」と思っていたら、何と、元々カラー口絵21点を予定していたのに、図版の使用をめぐってウォーホル財団と折り合いがつかず、出版は延期になり、図版を大幅に削減し、モノクロで縮小することで決着した…という顛末が巻末に掲載されていました。お気の毒~。でも作品以外にも元ネタになった写真や記事なんかも豊富に載っていて、とても興味深かったですよ!

ポップ・アートといえば、いろんな作家がいますが、やはりウォーホルははずせないと思いますので、展覧会を見る前に一読をおすすめいたします。

ところで!な~んと、滋賀県立近代美術館でも9月7日(土)から、「ポップの目 アーティストたちは現代文化に何を見たか」と題して、当館のコレクションが一堂に見られる展覧会が開催されます。詳細はまた改めてご紹介したいと思います。お楽しみに!

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堂島リバービエンナーレ2013

2013-08-18 | 展覧会

2年ぶりの堂島リバービエンナーレ。今回も終了ぎりぎりに間に合いました。さて、今年はどんな展示が見れるでしょう?

今年は、台湾出身のキュレーター、ルディ・ツェン氏をアーティスティック・ディレクターに迎え、「Little Water」をテーマに展示が行われていました。堂島川のほとりの会場で、まさしく水の多様性さながらの、バラエティに富んだ作品を楽しむことができました。

前回は、東日本大震災の直後でもあり、それが作品にも色濃く反映されて、地面に続いている地球の底力みたいなものを実感させられました。今年のテーマである「水」には、そこにはやはり、津波を思わせるやさしいばかりではない水の威力を感じさせる作品もありましたが、どちらかというと「静」のイメージが強いものが多く、あまり強烈なインパクトのある作品は前回に比べて少なかったように思いました。でも、アジアの作家たちの作品がたくさんあって、その感覚がとても新鮮に感じました。

4階の会場では、2つのビデオ作品が見られたのですが、ウィリアム・ケントリッジに再会できたのは、嬉しかったな。ケントリッジの作品の粗いアニメーションの水の動きはとても印象的。モゾモゾと動く水の中から、何かが現れたり、のみ込まれたり…。展開が不思議で目が離せない!

もうひとつのユェン・グァンミンさんの作品も不思議でおもしろかったです。3面のすごくワイドの画面に、カメラが川面とか、家の中とか、木の上とかに自在に行ったり来たりするのですが、まるで、自分が小さい飛行機の乗って、移動(しかも後ろ向きに!)している感覚に陥ってしまう…。どうやって撮影してるんでしょ??

もうひとつおもしろかったのは、八木良太さんの「Vinyl」、氷のレコード!会場では、それがプレーヤーで再生されている様子がビデオで流れていたのですが、18時から実際にその様子を見ることができました。レコードは、再生しているうちに溶けて、針がとんじゃって、同じところを何度も再生して、ボロボロって感じで終わったのですが、なんだかはかなげで良かったですね~。シリコンの型に溝をつけて水を凍らせているそうで、やっぱりすぐ溶けて溝がなくなっちゃうんだそうです。触らせてくれたりして、楽しかった!

な~んと、展示作品は、1点を除いて撮影可とのことでした。すごく珍しいことなので、作品を見ている横で、カシャとか撮ったりするのも不思議な感覚。(掲載写真:左はチームラボ「憑依する滝」CGによる滝は、細かすぎて生物のような不気味さ。右はウォルフガング・ライプさんの作品で、金色の船を支えているのはお米!)

前回のように、特別なBGMとかはなくて、空間そのもののインパクトには欠けましたが、小さな営みに暖かな火をともすって感じ(?)のユニークな展覧会でした。いよいよ、明日18日(日)まで!

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「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」

2013-08-09 | 映画

前作の「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」を見てから、何と!もう2年半もたっていました。前作が上映された頃から、次の作品の予告がされていましたので、本当に今か今かと待っていました。いよいよ京都での上映だ!場所は、いつも素敵な映画を見せてくれる「京都シネマ」です。

物語は、ふたりがコツコツと集めてきた膨大な現代アート・コレクション、ワシントンのナショナルギャラリーに寄贈されることになったのだけれど、それでも到底おさまりきらない!!ってことで、急遽、全米50州の美術館に50作品ずつ、計2500点を寄贈するプロジェクトがスタートし、彼らのコレクションを、それぞれの美術館がどのように受け止め、観客がどのように鑑賞したか、そのいくつかの美術館を夫婦が訪ねるシーンも交えながら紹介される、というものだ。

映画が始まって、最もショックを受けたのは、ハーブ(旦那さん)があまりに年を取っていて、なんだかとても生命の灯が小さくなってしまっていたこと…。前作で、鋭い眼差しで作品を見つめ、的確な言葉で作品を評していたハーブの姿がとっても印象的で、このコレクションは彼がいたからこそだな~と思っていただけに、とても残念に思いました。人は老いるものだ…とわかっていても。

このプロジェクトは、斬新なアイデアで、寄贈された美術館にもとても歓迎されたと思うけど、やはりコレクションを分割するということには、さまざまな葛藤があったようです。ハーブも最初は反対だったそう。そして彼らが親しくつきあってきたアーティスト、リチャード・タトルもコレクションを分かつことに納得がいかず、関係が断たれてしまっていたのですが、映画の中のトークショーで同席した夫婦と仲直り。この時ばかりは、ハーブの眼に光が灯り、タトルをじっと見つめていて、感動して涙が出そうになりました。

それにしても、アメリカってやっぱり広大な国ですよね~。美術館のまわりの環境も、都会あり、大自然あり、寒そうだったり、あったかそうだったり…。すべての美術館で彼らのコレクションが大切に保管され、展示され、地域のお客様に愛されることを願わずにはいられません。子どもたちがヘンテコな作品をくりくりの興味深げな眼差しで見つめるのは何ともいえずかわいらしく微笑ましかったです。

さて、本作は、以前JRの展覧会の記事でもご紹介した、「クラウドファンディング」(motion gallery)で資金を集め、上映が実現したもの。何と!900人あまりの支援で1400万円を調達。多分そのおかげで、ドロシーも来日できたんだと思う。もちろん、協力しましたヨ。パンフレットにも小さくだけど、名前がのりました。そして!実は前作のDVDに加え、本作のDVDももらっていたんですね~。でも最初に映画館で見よう!っと思って見ずにとってあったんです。本作では、夫婦が寄贈したたくさんの作品も紹介されているんだけど、一瞬だったので、またDVDでじっくり見るのだ~!

ハーブの死によって、ドロシーはコレクションの終結を宣言しました。二人は伝説になるんだね。こんな素敵な夫婦の存在を知ることが出来て、本当に嬉しい。監督の佐々木芽生さんには、大きな感謝の意を捧げたいと思います。8/16(金)まで上映。

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