テレビ番組や雑誌で予習もし、楽しみにしていた「バルテュス展」へいよいよ行ってきました!美術館までの道中はえらい雨。そのせいもあってか、日曜日とはいえけっこうすいていて、ゆっくり鑑賞することができました。
会場入っていきなり、バルテュス晩年のスイスのお宅にあったアトリエの再現。写真などを見るとかなり忠実なようでした。バルテュスがこだわった光を取り入れる窓はもっと大きいのかと思ったな…。今回の展覧会には節子夫人の尽力とこだわりが大きいことがうかがえます。
作品は年代を追って展示されています。最初の目玉はやはり絵本「ミツ」の原画。11才のときに描いて、リルケにその天才ぶりが認められ出版にこぎつけたという。どちらかというと、めちゃめちゃ絵がうまい、というより子供らしくかわいらしい絵です。かわいがっていた猫がいなくなって、見つからなくて泣いて終わるところが、いじらしい感じ。この作品は、ショップのいろんなグッズに用いられて、華々しく売り出されている人気ものでした。(本も売ってた!)
10~20代の作品もあったが、バルテュスが俄然輝きだすのは、26才のとき、物議を醸したというパリ・ピエール画廊での初個展。嵐が丘を下敷きにしている「キャシーの化粧」やポーズが怪しい「鏡の中のアリス」は、人物の表情やポーズと配置の妙、そして光り輝く女性の肌の感じにより、何とも言えない不思議な迫力があります。予習で何度も目にしていたけど、思っていたより大きな作品だし、やはり実物の作品から受ける衝撃は大きかったですね~。
そして30代に描かれた名作の数々。本展の目玉である「夢見るテレーズ」と「美しい日々」は、本当に素晴らしかったです。少女を描いている、とか、ポーズがヘン、とか、そういうことが全く気にならないほどに、色調や構成や描かれている人物の表情やポーズが、もうコレしかない!ってくらいに完璧なのです。テレーズの表情は崇高な感じすらし、身体全体から光が放たれているように輝いています。反対に、「美しい日々」の少女は暖かい光に包まれているようで、表情も「自分にうっとり」とかではなく、とても凛として美しいと思いました。まるでボッティチェリのヴィーナスのよう…。
そしてシャシーの田舎暮らしの時代を経て、ローマの「アカデミー・ド・フランス」館長の時代へ。このとき、ヴィラ・メディチの内装の修復を手がけたバルテュスは、特に壁の仕上げにこだわったといいます。だから、でもないのでしょうが、この時代の作品たちは、まるで壁を塗り込めたような厚塗りの作品が多かったです。
「読書するカティア」はステキでした。大きな作品で、本当に背景の丹念に塗り込められた壁が主役のような作品です。落ち着いた色合いの中で、本の黄色が燦然と輝いて見えました。節子夫人をモデルにしている日本風の「朱色の机と日本の女」も、映像や印刷で見るのでは全く想像できない質感です。ちょっと塗り過ぎか?ってくらいの厚さ、しかもセメントのようなザラザラ感。その物質に絵が埋め込まれているような印象です。全く独特だと思いました。
今回、かなり大規模な回顧展だとは思いますが、それでももっと見たい作品がたくさんあります。今回習作が出品されていた「トルコ風の部屋」にも再会したいし、「山(夏)」もかなり見たいです。
貴族の出身で幼い頃から文化人に囲まれた特別な生育環境、その後のフツーじゃない人生、画風も時代によってバラエティに富んでいるし、少女をテーマにすること、またそのポーズに独特のこだわりがあることなどなど、ものすごくアンビバレントで不思議な人だと思いました。でも、まぎれもなく「画家」だなあ!とも思いました。実際に作品を前にすると、目を奪われ心を動かされるのです。他の誰でもない「バルテュス」なのですよね。
彼の作品がまとまって見れる貴重な機会です。ぜひぜひ足を運ばれる事をおすすめします!展覧会は9月7日(日)まで。