アートの周辺 around the art

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「ヘンな日本美術史」 山口 晃 (祥伝社) 

2013-01-13 | 


今をときめく現代の絵師、山口晃氏による初の書き下ろし画論。本の表紙のカバーでは、雲海にのって歴史上の絵師たちが筆をふるっておいでです…、もちろん山口晃作。髭をたくわえたご自身の姿も見えます。
タイトルに「ヘンな」とついているのは、この氏による美術史がいささか変わっているのか…、それとも「日本美術」が特異なのか…。

やはり「絵描き」の視点というのは独特。絵を描かないものにとっては、ましてやプロの絵描きだからこその視点というのは、想像つかないものだな~と思います。氏は先達の絵を得手勝手に見立てているだけ、とおっしゃっていますが、その独断が冴えれば冴えるほど、読んでいるこちらは、ワクワクと楽しくなります。

取り上げられているのは、「鳥獣戯画」「源頼朝像」「彦根屏風」など超有名な作品はじめ、雪舟、岩佐又兵衛、河鍋暁斎、月岡芳年など日本美術史を彩る作家を多彩に。
特に雪舟の章は、中国の関わりの中で画風を確立していった雪舟について、本物の作品の凄みに触れる中、同じように描く者だからこそ想像できるメンタリティをすごく豊かに伝えていて大変おもしろかったです。
山口氏が、歴代の巨匠の絵画を見ながら「少しは肉を描け!」(雪舟の「破墨山水図」が背骨だけでできている絵画だと評して)とか「とりあえずアゴの下を取ってから来い!」(岩佐又兵衛の描く人物が全て下膨れなのに対し)とかツッコミを入れながら見ていらっしゃるところを想像すると、なんか笑っちゃいます。
先日の京都の「山口晃展」でも「邸内見立 洛中洛外圖」が出品されてましたように、氏の洛中洛外図に対する思い入れ、いろいろなパターンにワクワクされている様子もよ~く伝わって来ます。

一番印象的だったのは、日本の美術に西洋的な写実が入り込みその技術が習得される中で、日本古来の表現であった本当の意味での写実、つまり「見たまま自由に描くこと」が失われてしまったということ。

~幕末、ある西洋人が日本人が描いた似顔絵を見て尋ねました。「なぜ、横顔を描いているのに目は正面を向いているのか?」その日本人は答えました。「本当だ。今まで気づかなかった」~

山口氏自体も、もともと油絵を学んでおられたので、そのやまと絵の表現はもうできない、と書かれています。きっと自分自身も何かを知ったり理解することで、逆に見えなくなったり理解できなくなったりすることもあるのだろうな~と、絵画鑑賞にとどまらないそのようなことに気づきました。

一般的ではない日本美術史について、そしてまた、山口晃氏の絵画に対する思いなどを知ることもできる、大変楽しい一冊です。ぜひご一読を!

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