アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

志村ふくみ ―母衣(ぼろ)への回帰―

2016-03-27 | 展覧会

昨年夏の滋賀県立近代美術館での個展に続き、秋に文化勲章を受章されたのを記念し、京都で回顧展が開催されました。ゼッタイ見逃せない!と思いつつ、閉幕ぎりぎりの訪問となってしまいました。

会場に入ると、最新作(平成28年作!)の会場の天井にも届く大きな作品「母衣曼荼羅」が展示されています。ブルーを基調に布が繋ぎ合わされたタペストリー。これは民藝運動の織り手であった志村さんの母から譲り受けた糸が使われているとのこと。荘厳なイメージで、民衆の手仕事とされていた紬織の「昇華」が、そこにはあるように感じました。

そして作品は、ここ2~3年の近作が目白押し!91歳になられてもなお、あふれ出る創作意欲が全面に押し出されているようで、圧倒されます。

志村さんの作品は、縦と横の糸が織り成す、まるで風景を閉じ込めたかのような色の組み合わせの妙が素晴らしいと思っているのですが、展示されていた12点の単色の着物には目を奪われました!植物の色をそのまま写し取ったかのようなそれぞれの色の、なんともまあ美しいことよ!そうなのか、志村さんが魅せられたのは、これだったのか~と得心いたしました。

深い緑は、植物からは直接写すことのできない色、藍と刈安で染められています。梅で染められた淡いピンク色の匂い立つようなかわいらしさ。紫色の高貴さ。そして玉葱が表出する豊かな色味。どの色も、本当に眼に心に癒しを与えてくれるような優しさに満ちた色。本当に素晴らしかったです!

会場の真ん中あたりには、43色に染分けられた生糸によるインスタレーション「光の經」が。ピンと張られた色とりどりの糸に光があたり、神秘的なイメージ。糸は、色は、生きているんだな、と感じます。

志村さんにとっては、琵琶湖も大きなインスピレーションであることがわかります。湖面の風景を写した作品がたくさんあり、そこには本当に風景が見える気がするし、限られた反物の幅から、風景が広がっているような気がするんですよね。

そして、「源氏物語」シリーズ。これは、わが滋賀県立近代美術館の作品がほとんどなのですが、ガラスケースに収められない固まりとしての展示は良かったです。まさにこのような機会のために、今、与謝野晶子訳「源氏物語」を読み進めているわけですが、志村さんと自分自身の物語に対するイメージがシンクロするようで、楽しい体験でした。「若紫」は、上品で美しかったですわ~。

今回の展示の特徴は、最新作から時間をさかのぼり、最後に初期の作品が展示されていること。そして、彼女のルーツでもある民藝の作家、富本憲吉や黒田辰秋による工芸作品や、志村さんの母、小野豊の着物も展示されていました。また、美術館のコレクション展でもこれに関連し、民藝の作家たちの作品が展示されていました。でも、志村ふくみさんは、やはり唯一無二の作家であるように思います。

展示の解説など説明がましいところが一切なく、志村さんの思いを伝える少しの文章と色と布の美しさを前面に押し出した展覧会、まだまだ現役!志村ふくみさんの心意気を感じることができました。今後の美の探究へ、さらに期待したいです。

展覧会は、残念ながら3月21日で終了。志村ふくみさんの多くのコレクションを持つ滋賀県立近代美術館では、本日27日まで新作コレクションが見られました。次の機会に、ぜひ訪ねてみてください!

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宇佐美圭司回顧展 絵画のロゴス@和歌山県立近代美術館

2016-03-13 | 展覧会

今年前半は、何かと和歌山にご縁がありそうで…。2月にクエを食いに白浜に行ったばっかりですが、お目当ての展覧会が始まった和歌山県立近代美術館を訪ねました。4月末には「恩地孝四郎展」も控えてますしね!

現代美術家である宇佐美圭司さんが、2012年に逝去されて以来、関西圏では初めてとなる回顧展。以前、彼の著書を紹介した記事にも書いたが、私にとっては、1992年に大阪南港にあった安藤忠雄建築のライカ本社ビルで行われた展覧会が、ものすごく印象に残っています。天井の高いコンクリートの無機質な展示空間に、ブルー系の美しい色彩の思索的な大画面の作品が並べられていた光景が今でも目に浮かびます。(今調べてたら、この建築はライカ倒産により2012年に取り壊されていました…。う~ん、過ぎ去った年月の長さを感じるなあ。)

宇佐美さんの作品の一番の特徴は、1965年の「ライフ」誌に掲載されたロサンゼルス・ワッツ地区で起こった黒人暴動を報じた写真から、4つの人型(投石する人、走る人、たじろぐ人、かがみこむ人)を抽出し、これらを人間の持つ根源的な形態として、以降、繰り返しモチーフとして作品に描き込んだことでしょう。

それ以前は、色が乱舞する抽象画、そしてそれを鎮静化するような白で塗り込まれた抽象画を制作されていました。抽象表現を徹底的に突き詰めたその先にあらわれた4つの人型。実際にその写真が掲載されている「ライフ」誌が展示されていましたが、この中から4つの人型を見抜いた宇佐美さんの眼っていかなるものだったのでしょうか…。

以前見た展覧会が1992年ですから、宇佐美さんはまだ52才、振り返ればまだ「中堅どころ」だったのかもしれないですね。久しぶりに宇佐美さんの作品に再会できて嬉しかったし、その後の20年に、どんな風に作品が変遷したのかも、とっても興味深かったです。

初めの頃の作品は、4つの人型が、一定の規則をもって配されながらも、点在し静止している印象を受けますが、晩年の作品は、この4つの人型がぴったり円の中に収まり(まるで、ダ・ヴィンチの有名な人体図のように)、その円が連なって画面を構成しているので、ものすごく動きを感じます。

円の連なりが生み出すうねりは、遺伝子の螺旋を思わせたり、天空の星の動きを思わせたり、はたまた、曼荼羅を思わせたり…。大きな動的エネルギーを感じ、なんだか前に飛び出してくるように見える一方、すごく画面が静謐で深遠な感じでもあるのです。具体的な人型を用いながらも、やはりこれは、抽象表現主義絵画なのではないだろうか?と思いました。

色が何ともいえずに美しいのですよね~。ほとんどが2m四方を超えるような大作ばかりですから、「絵」を見る楽しみを心から感じることのできる満足の時間でした。カタログがまだ出来ていなかったのは残念!次回訪ねた時には買えるかな??

展覧会は4月17日(日)まで。美術館は、和歌山城のすぐそば、建物や施設に、黒川紀章さんのこだわりが満載で、とっても個性的です!

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