昨年夏の滋賀県立近代美術館での個展に続き、秋に文化勲章を受章されたのを記念し、京都で回顧展が開催されました。ゼッタイ見逃せない!と思いつつ、閉幕ぎりぎりの訪問となってしまいました。
会場に入ると、最新作(平成28年作!)の会場の天井にも届く大きな作品「母衣曼荼羅」が展示されています。ブルーを基調に布が繋ぎ合わされたタペストリー。これは民藝運動の織り手であった志村さんの母から譲り受けた糸が使われているとのこと。荘厳なイメージで、民衆の手仕事とされていた紬織の「昇華」が、そこにはあるように感じました。
そして作品は、ここ2~3年の近作が目白押し!91歳になられてもなお、あふれ出る創作意欲が全面に押し出されているようで、圧倒されます。
志村さんの作品は、縦と横の糸が織り成す、まるで風景を閉じ込めたかのような色の組み合わせの妙が素晴らしいと思っているのですが、展示されていた12点の単色の着物には目を奪われました!植物の色をそのまま写し取ったかのようなそれぞれの色の、なんともまあ美しいことよ!そうなのか、志村さんが魅せられたのは、これだったのか~と得心いたしました。
深い緑は、植物からは直接写すことのできない色、藍と刈安で染められています。梅で染められた淡いピンク色の匂い立つようなかわいらしさ。紫色の高貴さ。そして玉葱が表出する豊かな色味。どの色も、本当に眼に心に癒しを与えてくれるような優しさに満ちた色。本当に素晴らしかったです!
会場の真ん中あたりには、43色に染分けられた生糸によるインスタレーション「光の經」が。ピンと張られた色とりどりの糸に光があたり、神秘的なイメージ。糸は、色は、生きているんだな、と感じます。
志村さんにとっては、琵琶湖も大きなインスピレーションであることがわかります。湖面の風景を写した作品がたくさんあり、そこには本当に風景が見える気がするし、限られた反物の幅から、風景が広がっているような気がするんですよね。
そして、「源氏物語」シリーズ。これは、わが滋賀県立近代美術館の作品がほとんどなのですが、ガラスケースに収められない固まりとしての展示は良かったです。まさにこのような機会のために、今、与謝野晶子訳「源氏物語」を読み進めているわけですが、志村さんと自分自身の物語に対するイメージがシンクロするようで、楽しい体験でした。「若紫」は、上品で美しかったですわ~。
今回の展示の特徴は、最新作から時間をさかのぼり、最後に初期の作品が展示されていること。そして、彼女のルーツでもある民藝の作家、富本憲吉や黒田辰秋による工芸作品や、志村さんの母、小野豊の着物も展示されていました。また、美術館のコレクション展でもこれに関連し、民藝の作家たちの作品が展示されていました。でも、志村ふくみさんは、やはり唯一無二の作家であるように思います。
展示の解説など説明がましいところが一切なく、志村さんの思いを伝える少しの文章と色と布の美しさを前面に押し出した展覧会、まだまだ現役!志村ふくみさんの心意気を感じることができました。今後の美の探究へ、さらに期待したいです。
展覧会は、残念ながら3月21日で終了。志村ふくみさんの多くのコレクションを持つ滋賀県立近代美術館では、本日27日まで新作コレクションが見られました。次の機会に、ぜひ訪ねてみてください!