あべのハルカス美術館で浮世絵の展覧会を見るのは、これで3回目。鈴木春信ファンの私にとって待ってました!の本展覧会は、ボストン美術館からの里帰り。日本国内では、ほぼまとまって見ることが出来ない春信作品を、何と!600点以上も所蔵しているそうです。そして保存状態が良く、美しい色彩が保たれており、質量ともに世界最高を誇っています。
江戸中期、それまでの紅色を中心とした2,3色摺りの「紅摺絵」から、複雑な多色摺りである美しい「錦絵」が誕生しました。その創成期の第一人者とされているのが鈴木春信です。絵師によって人物画の特徴もいろいろですが、鈴木春信の描く人物は、とても上品でかわいらしい。中性的で、男か女か、その表情から判別するのは難しい。立ち姿はスックとしているのだけど、必要以上にスラリと見せるではなく、頭と体のバランスは日本人らしくて、親しみを感じます。何気ない情景を切り取ったような作品の中には、とてもゆったりと時間が流れている気がします。後の時代の国芳みたいなドラマチックな動的エネルギーとは対極にあるように思います。
今回、会場でじっくり作品を眺めていて、木版画を作る過程で、紙に施されるさまざまな細工に改めて驚かされました。特に、錦絵が誕生した初期だからこそ、絵の具も紙も、高価で質の高い材料が使われていたとのこと。後の時代のように大衆化され量産されたのでは、とてもできない、稀少な凝った作品が作られていたのでしょう。
浮世絵の技法に「空摺り」というものがあります。いわゆる「エンボス」です。作品の中の娘さんの白い着物の表面に、細かい模様がエンボスでくっきりと浮かび上がっている、その凹凸の美しいこと!また「きめ出し」というのは、版木自体に凹面を彫り、紙を当てて叩くことで、ゆるやかな凸面をつくる技法。雪の風景の盛り上がりや、帯と着物に立体感があるのに気付くと、もう震える!これって、ただの絵じゃない!見るだけじゃなくて、絶対触って楽しんでたんじゃないか?わー、触りたい!
浮世絵ってプリントだから、図録でも楽しめるかな~と思ったら大間違いでした。本物に目を近づけてじっくり見るからこその素晴らしさ。ホントは手に取って自分の世界で愛でたい作品ですよね~。
しかしながら、いくら保存状態が良いとはいえ、250年が経過した作品に退色は免れません。ところが!展示されていた「絵本青楼美人合」という彩色摺絵本は、書籍という形態により、とても鮮やかな色彩が残っていて、その華やかな色合いにはうっとりいたしました。今の作品にもたおやかな風合いはありますけど、当時の鮮やかさは、どんなにか見る人を虜にしたことでしょう!!素晴らしい作品たちを堪能し、ますます春信が大好きになりました。
展覧会は、あべのハルカス美術館では6月24日(日)まで。7月7日から福岡市博物館へ巡回いたします。