アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

ボストン美術館浮世絵名品展 「鈴木春信」

2018-06-23 | 展覧会

あべのハルカス美術館で浮世絵の展覧会を見るのは、これで3回目。鈴木春信ファンの私にとって待ってました!の本展覧会は、ボストン美術館からの里帰り。日本国内では、ほぼまとまって見ることが出来ない春信作品を、何と!600点以上も所蔵しているそうです。そして保存状態が良く、美しい色彩が保たれており、質量ともに世界最高を誇っています。

江戸中期、それまでの紅色を中心とした2,3色摺りの「紅摺絵」から、複雑な多色摺りである美しい「錦絵」が誕生しました。その創成期の第一人者とされているのが鈴木春信です。絵師によって人物画の特徴もいろいろですが、鈴木春信の描く人物は、とても上品でかわいらしい。中性的で、男か女か、その表情から判別するのは難しい。立ち姿はスックとしているのだけど、必要以上にスラリと見せるではなく、頭と体のバランスは日本人らしくて、親しみを感じます。何気ない情景を切り取ったような作品の中には、とてもゆったりと時間が流れている気がします。後の時代の国芳みたいなドラマチックな動的エネルギーとは対極にあるように思います。

今回、会場でじっくり作品を眺めていて、木版画を作る過程で、紙に施されるさまざまな細工に改めて驚かされました。特に、錦絵が誕生した初期だからこそ、絵の具も紙も、高価で質の高い材料が使われていたとのこと。後の時代のように大衆化され量産されたのでは、とてもできない、稀少な凝った作品が作られていたのでしょう。

浮世絵の技法に「空摺り」というものがあります。いわゆる「エンボス」です。作品の中の娘さんの白い着物の表面に、細かい模様がエンボスでくっきりと浮かび上がっている、その凹凸の美しいこと!また「きめ出し」というのは、版木自体に凹面を彫り、紙を当てて叩くことで、ゆるやかな凸面をつくる技法。雪の風景の盛り上がりや、帯と着物に立体感があるのに気付くと、もう震える!これって、ただの絵じゃない!見るだけじゃなくて、絶対触って楽しんでたんじゃないか?わー、触りたい!

浮世絵ってプリントだから、図録でも楽しめるかな~と思ったら大間違いでした。本物に目を近づけてじっくり見るからこその素晴らしさ。ホントは手に取って自分の世界で愛でたい作品ですよね~。

しかしながら、いくら保存状態が良いとはいえ、250年が経過した作品に退色は免れません。ところが!展示されていた「絵本青楼美人合」という彩色摺絵本は、書籍という形態により、とても鮮やかな色彩が残っていて、その華やかな色合いにはうっとりいたしました。今の作品にもたおやかな風合いはありますけど、当時の鮮やかさは、どんなにか見る人を虜にしたことでしょう!!素晴らしい作品たちを堪能し、ますます春信が大好きになりました。

展覧会は、あべのハルカス美術館では6月24日(日)まで。7月7日から福岡市博物館へ巡回いたします。

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色彩の画家 オットー・ネーベル展@京都文化博物館

2018-06-03 | 展覧会

東京で開催されているときから、とても興味を抱いていた展覧会に行ってきました。(Bunkamuraザ・ミュージアムの展覧会サイトがたいそう充実しているので、ぜひご覧ください)

ドイツ・ベルリンに生まれたオットー・ネーベルは、パウル・クレーやカンディンスキーより10~20年若い世代ではありますが、彼らと親密な交流を持つなかで、具象画から抽象画の世界へと飛び立った画家のひとりです。経歴がおもしろくって、キャリアの最初は建築専門学校で建築工事の技術を学んでいたり、その後俳優で活躍した時期もあったり。建築を学んでいた影響か、初期の抽象化されていく風景には、建物が多く描かれ、縦と横の直線が目立ちます。

タイトルに「色彩の画家」と謳われているとおり、作品で用いられている色の美しさが目を引きます。チラシに取り上げられている作品は、「イタリアのカラーアトラス(色彩地図帳)」の中の「ナポリ」。これは、ネーベルが1931年にイタリアを旅した際に、その景観を自身の視覚感覚によって色や形で表現した色彩の実験帳。さまざまな形状のバリエーション豊かな色の組み合わせ。彼がその地に降り立ったときに感じた取った空や土や風景の色彩、風、音、そんなものが凝縮されているのだろう。実際、展示で見ることができたのは2ページだけだったのだけど、映像で全部紹介されていて、また24枚組の絵ハガキが販売されていましたので、即買い!眺めているとウキウキしてくる美しさです。

展覧会場では、クレーやカンディンスキーの作品も併せて展示されていましたが、比べてみるとネーベルの作品の特徴が際立っていました。それは、絵肌の複雑さです。描かれている形自体はシンプルであっても、目を凝らすと、色面が細かい線やドットで構成されており、まるで細い糸で刺繍したような重層感を感じるのです。あたかも単色でペッタリ塗ることを断固拒否しているような、その色面の作り方は、さまざまな作品を見れば見るほど驚愕!してしまいます。布地を思わせるからか、暖かみを感じました。

※展覧会場では、一部の作品が撮影可でした。

バウハウスから創作のインスピレーションと、偉大な友人たちを得たネーベルは、ナチスから退廃芸術であると弾圧され、スイスのベルンに移り住みます。ベルンでは、1933年から制作・就業を禁じられ、実に10年以上も苦難が続いたとは驚きでした。中立国のスイスにおいても、そのような状況であったとは…。

1952年にはベルン市民となり、大規模な展覧会なども開催したとのことです。晩年には近東を訪ね、そのイメージ(土地の色とか、文字の形とか、だろうか?)を取り入れた作品なども制作し、ますます自由な境地を開いていった様子が作品からも窺えました。そして生涯ずっと、絵肌は重層でした!

本当に眼に美味しいこの展覧会。ぜひ実物を見てほしい!6月24日(日)まで。

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