新・本と映像の森 247 及川和男『森が動く時 (上・下)』新日本出版社、1977年9月25日&10月25日
285ページ&306ページ、定価1300円×2
1970年代始めの第1次革新躍進の時代を描く。作者は岩手県の民主文学者。
1972年、銀行員の主人公、北原治郎を語り手にして、妻の康子さんが交通事故で急逝した法要から始まる。
康子さんは新婦人の活動家で無認可保育所の園長もしていた。
治郎は共産党の活動家で、G銀行を相手に6年以上の差別撤回申し立てをたたかっている。残された家族は長男で中学1年生になったばかりの学と妹の小学生・和子。
親友で共産党の地区常任委員の今村、保育所の中村恒子、「赤旗」専従でK村へ開拓選挙のため移住する三沢章など、人々の群像はとても生き生きと岩手の大地に生きる人々を描いている。
康子さんの実家樫村家は旧家で当主の惣助は自民党の県議として政治的には治郎とは対立している。
康子さんの妹で染色家の尚子さんとの交流。そして愛の予感。
ボクが初めて、この作品を読んだのは、たぶん1979年2月11日の結婚前だと思う。結婚って何なのか、すごく身になった作品だったと思う。
そういう意味では創作上の人物だが、樫村尚子さんに深く感謝する。尚子さん、ありがとう。
タイトルの「森が動く時」は尚子さんの弟で大学の先生の邦助さんの生態学で「森が生きているように動いている」という意味の話とシェイクスピア『マクベス』第4幕第1場からとっている。
上巻の途中で尚子さんは言う。
「あたしは、その停まったままのものを、身をもってもう一度動かしていきたいのです。そうせずにはいられない気持ちなんです」(上巻、p67)
新しい出発のとき、尚子さんは言う。
「「ああ、やっぱり動いている」
尚子が、遠い尾根を見つめながら澄んだ声で言う。」(下巻、p306)
☆
こういうのを読んでいると昔と違って、とくに脳卒中以来、なぜかすぐ感情が上がってきて、ノドが痙攣したようにまるで泣いてるようにもなってしまう。
若い頃は、自分は冷血で感情はないと思っていたから、こういう自分がいることに驚かされる。則子さんも、このまえ「どうしたの?」とビックリしていた。
こういう過去の作品も大事な、読むべき文学として、一つひとつ紹介していこうと思います。
新聞って「今月出た本」しか紹介しませんからね。