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のんのん太陽の下で

初めての一人暮らしが「住民がいるんだ・・・」と思ったラスベガス。
初めての会社勤めが「夢を売る」ショービジネス。

クリスチャン

2006-05-26 | KA
アーチャーズデンと呼ばれるシーンの前、壁にへばりついて待機している私の前を「ノリコー!」と言いながら、出ている左脚をコチョコチョと触り、急いで自分の待機場所に移動するのが彼のキューでした。一度、いつものようにキューをしようとすると脚に触れられず、二人で「おや?」と思ったらスカートが曲がっていて「このキューがなかったら気付かないで曲がったまま出てしまったね。」と笑ったことがありました。最近は彼は早換えをしないで済むようになり、私が出入りするみなさんのためにドアの開け閉めをしている時に彼は通り過ぎるようになり、「ノリコー」彼、「行ってらっしゃい」私、という言葉のやり取りがキューになっていました。
今日、アーチャーズデンの待機で壁際に立っているとき、涙が出てきました。そう、今日はクリスチャンが最後の日だったのです。
クリスチャンはケベック出身で、クリエイションの一番初めからいるアーティスト。私はケベック人のみなさんの飲み仲間に入れてもらっているので親しいアーティストの一人です。彼は長野県は松本で小澤征爾さんやロベール・ルパージュさんと仕事をしたことがあるとか。とにかく経験が豊富で何でもできる人です。そんな彼だからでしょう、契約がみんなと違っていて契約は今日で切れ彼は更新を望みませんでした。
彼との思い出は数え切れないほどあります。その中でも一番お世話になったことは“自転車修理”です。彼は自転車やさんで働いていたといい、いつも私の“愛車”を気に掛けていてくれて、飲み会の帰り、「ノリコー、自転車の調子はどう?」と訊いてくれました。私が「直さないといけないのはわかっているのだけど・・・」といいながらブレーキの具合を示すと「ノリコ・・・明日自転車を中に入れておきなさい。僕が時間のある時に直しておくから。」そんなことが何度もありました。彼は「たまに違うことをやるのは楽しいよ。」といって鼻歌を歌いながらそれでも真剣な目つきで整備をしてくれました。言うまでもなくきっちり直ります。時にはワイヤーをすべて変えてくれたり、ショーが終わったあとに残って直してくれたりもしました。
松本でも自転車とは仲良しだったようでサーカスで自転車を操る友達と自転車を走らせた話を効果音や動作を入れながら良く話してくれました。ついでに日本の大きなおいしいりんごの話や今でも愛用している作務衣の話や・・・
彼が去っていくのは友人としてだけでなくショーにとっても大きな打撃です。でも、晴れやかな彼の顔には少しの未練も感じられず、やり遂げた自信と明日への希望がみなぎっていました。今日は彼に出会い彼と仕事ができたことに感謝して一緒に立てる最後の舞台に立ちました。明日彼は最初で最後(?)のKAの観客となるそうです。あすは彼の門出のために、そしてこの3年間の仕事が彼にとっていつまでも誇りに思えるように私自身大切に舞台に立ちたいと思います。