帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第五 秋歌下 (253)神無月時雨もいまだふらなくに

2017-07-14 19:06:23 | 古典

            


                        帯と
けの古今和歌集

                      ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直している。古今和歌集の歌には多重の意味があり、その真髄は、公任のいう「心におかしきところ」である。人のエロス(生の本能・性愛)の表現で、俊成がいう通り、歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる。

歌のエロスは、中世に秘事・秘伝となって「古今伝授」となり、やがて、それらは埋もれ木の如くなってしまった。はからずも、当ブログの解釈とその方法は「古今伝授」の解明ともなるだろう。

 

古今和歌集  巻第五 秋歌下253

 

(題しらず)            (よみ人しらず)

神無月時雨もいまだふらなくに かねてうつろふ神なびの森

(題知らず)             (詠み人知らず・女の歌として聞く)

(神無月・初冬十月、しぐれも未だ降らないのに、その前に、衰え枯れゆく神なびの森……上の月人おとこ、その時のおとこ雨も未だ降らないのに、その前に、衰える、上のおとこの激情の盛りよ)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「神…かむ…かみ…上…上になっている男」「無…な…の」「月…月人壮士…おとこ…突き…尽き」「時雨…しぐれ…冬の雨…その時のおとこ雨」「かねて…予ねて…前もって…その前に」「うつろふ…移ろう…悪い方に変化する…衰える」「神なび…上な火…上のおとこの激情」「な…の」「ひ…火…激情のたとえ」「森…もり…盛り…盛り上がり…あゝ盛りよ・体言止めは余情がある」。

 

神無月、しぐれも未だ降らないのに、その前に、枯れ衰える神の座す森・神は出雲へお出かけかしら。――歌の清げな姿。

上にいる貴身、つめたいおとこ雨も降らないのに、その前に、衰えゆく上の君の火(激情)の盛りよ。――心におかしきところ。

 

おとこの情熱のはかなく衰えるさまを、清げな言葉で表現した歌のようである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)