■■■■■
帯とけの金玉集
紀貫之は古今集仮名序の結びで、「歌の様」を知り「言の心」を心得える人は、いにしえの歌を仰ぎ見て恋しくなるだろうと歌の聞き方を述べた。藤原公任は歌論書『新撰髄脳』で、「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし」と、優れた歌の定義を述べた。此処に、歌の様(歌の表現様式)が表れている。
公任の撰した金玉集(こがねのたまの集)には「優れた歌」が選ばれてあるに違いないので、歌言葉の「言の心」を紐解けば、歌の心深いところ、清げな姿、それに「心におかしきところ」が明らかになるでしょう。
金玉集 春(十四)つらゆき
桜ちる木の下風は寒からで 空に知られぬ雪ぞ降りける
(桜花散る木の下を吹く風は寒くはなくて、空には知れない、花びらの雪が降ったことよ……お花ちる男木の下の心風は冷えてなくて、天には感知されない、おとこ白ゆき、降ったことよ)。
言の戯れと言の心
「桜…木の花…男花…おとこ花」「ちる…散る…散らす…降らす」「木の下風…男木の下風…男の下の風…女の風情」「寒からで…寒くなく…なま暖かく…冷えていない」「で…打消しの意を表す」「空…大空…人の営みとはかけ離れたところ…天…あま…あめ…女」「知られぬ…無関係の…感知されない」「雪…逝き…おとこ白ゆき」。
歌の清げな姿は、桜の花吹雪の景色。歌は唯それだけではない。
歌の心におかしきところは、下のひとの心風は冷えてはいないのに白ゆきふる、おとこのふがいないさが。
歌は、清げな姿があり、「心におかしきところ」の色情も、古今集真名序にいう奢淫(淫りがましいこと)にならない程度に抑えられてある。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
『金玉集』の原文は、『群書類従』巻第百五十九金玉集による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。