178条の引渡し 占有改定 |
① 売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従って債権者はこれによって占有権を取得するものであると解すべきである。 ↓ ② 上告人は昭和26年3月18日の売渡担保契約により本件物件につき所有権と共に間接占有権を取得しその引渡を受けたことにより、その所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになったものといわなければならない。 |
最判昭和30年6月2日 百選60事件
・①動産譲渡担保権が設定され、目的物がそのまま設定者の手元に残された場合には、占有改定が行われたものとみることができること、②動産譲渡担保権が設定された場合の対抗要件としては占有改定で足りること、という判断を示した。
→ 設定者は他面において、「将来債務不履行の場合に債権者に交付するがため債権者を代理してこれを占有するものである」というのが大審院の判例である。
178条の第三者 受寄者 |
Yが本件動産をBに売り渡し即時その引渡をなすとともに、同人の寄託によりこれを保管しているものであること、Bは同年五月右物件をXに売り渡したがその引渡は行われなかつたことをそれぞれ確定し、Xの所有権に基く右動産の引渡請求を認容したものである。右事実によれは、YはXに本件物件を譲渡した訴外Bに代って一時右物件を保管するに過ぎないものであつて、かかる者は右譲渡を否認するに付き正当の利害関係を有するものということは出来ない。従って民法178条にいう第三者に該当しない |
最判昭和29年8月31日 百選61事件
・動産を寄託していた者から所有権の移転を受けた者が、受寄者に対し当該不動産の引渡しを請求するために対抗要件を備えていることを要しない、という命題を示した。
・AがBの所有する絵画を所持していたが、Bは絵画をCに売却したがこれをAには伝えていなかった。Cが所有権に基づいてAに絵画の返還を求めたがこれは認められるか。AがBから絵画を賃借していた場合と、保管を委ねられていた場合とで比較せよ。
→ BがAに対してCへの売却を通知していれば、指図による占有移転によりCは対抗要件を具備したことになる。ところが本件では通知がないため、Cは対抗要件を具備していない。そのため、Aが178条「第三者」に該当するか否かが結論を左右することになるのである。Aが「第三者」に該当すれば、Cの対抗要件具備の欠缺を主張して絵画の返還請求を拒むことができるのである。
→ 判例は、賃借人は178条の「第三者」にあたるが、受寄者は第三者にあたらないとする(大判昭和13年7月9日、本判例)。
<賃借人と受寄者の異同>
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賃借人 |
受寄者 |
当該動産の占有の有無 |
あり |
あり |
新所有者の所有権取得を否定できなければ自身の占有を失うか |
失う |
失う |
占有継続の利益の内容 |
新所有者の所有権取得を否定できれば、旧所有者からの物の返還請求を受けても拒めるので賃借期間は占有の継続が法的権利として保証されている。 |
新所有者の所有権取得を否定できても、旧所有者からの物の返還請求を受ければ契約期間内であっても、返還しなければならない(662条)。物に対する支配権を法的に保証されていない。 |
・占有代理人は譲渡人に対して有していた賃借・寄託等の関係をもって譲受人に対抗しうるか、という問題があるが、今日では新しい所有者に対し従前契約に基づく法律関係の維持継続を主張することはできないと解されている。
・実は、本件は実はY→Bへの第1売買によりYからBへ所有権が移転し、その際Yが寄託を受けて物を保管し、ついでB→Xという第2売買によりBからXへ所有権が移転したという経緯がある。つまりYとXは前主・後主の関係にあり、一般的な理解においても「第三者」に該当しないという処理ができた事例である。そのため、最高裁が大審院以来の態度を踏襲するものかどうかは判然としない面もある。