民法判例まとめ23

2016-05-05 18:29:44 | 司法試験関連

178条の引渡し 占有改定

①   売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従って債権者はこれによって占有権を取得するものであると解すべきである。

 ↓

②   上告人は昭和26年3月18日の売渡担保契約により本件物件につき所有権と共に間接占有権を取得しその引渡を受けたことにより、その所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになったものといわなければならない。

最判昭和30年6月2日 百選60事件

・①動産譲渡担保権が設定され、目的物がそのまま設定者の手元に残された場合には、占有改定が行われたものとみることができること、②動産譲渡担保権が設定された場合の対抗要件としては占有改定で足りること、という判断を示した。

  → 設定者は他面において、「将来債務不履行の場合に債権者に交付するがため債権者を代理してこれを占有するものである」というのが大審院の判例である。

178条の第三者 受寄者

Yが本件動産をBに売り渡し即時その引渡をなすとともに、同人の寄託によりこれを保管しているものであること、Bは同年五月右物件をXに売り渡したがその引渡は行われなかつたことをそれぞれ確定し、Xの所有権に基く右動産の引渡請求を認容したものである。右事実によれは、YはXに本件物件を譲渡した訴外Bに代って一時右物件を保管するに過ぎないものであつて、かかる者は右譲渡を否認するに付き正当の利害関係を有するものということは出来ない。従って民法178条にいう第三者に該当しない

最判昭和29年8月31日 百選61事件

・動産を寄託していた者から所有権の移転を受けた者が、受寄者に対し当該不動産の引渡しを請求するために対抗要件を備えていることを要しない、という命題を示した。

・AがBの所有する絵画を所持していたが、Bは絵画をCに売却したがこれをAには伝えていなかった。Cが所有権に基づいてAに絵画の返還を求めたがこれは認められるか。AがBから絵画を賃借していた場合と、保管を委ねられていた場合とで比較せよ。

  → BがAに対してCへの売却を通知していれば、指図による占有移転によりCは対抗要件を具備したことになる。ところが本件では通知がないため、Cは対抗要件を具備していない。そのため、Aが178条「第三者」に該当するか否かが結論を左右することになるのである。Aが「第三者」に該当すれば、Cの対抗要件具備の欠缺を主張して絵画の返還請求を拒むことができるのである。

→ 判例は、賃借人は178条の「第三者」にあたるが、受寄者は第三者にあたらないとする(大判昭和13年7月9日、本判例)。

 <賃借人と受寄者の異同>

 

賃借人

受寄者

当該動産の占有の有無

あり

あり

新所有者の所有権取得を否定できなければ自身の占有を失うか

失う

失う

占有継続の利益の内容

新所有者の所有権取得を否定できれば、旧所有者からの物の返還請求を受けても拒めるので賃借期間は占有の継続が法的権利として保証されている。

新所有者の所有権取得を否定できても、旧所有者からの物の返還請求を受ければ契約期間内であっても、返還しなければならない(662条)。物に対する支配権を法的に保証されていない。

・占有代理人は譲渡人に対して有していた賃借・寄託等の関係をもって譲受人に対抗しうるか、という問題があるが、今日では新しい所有者に対し従前契約に基づく法律関係の維持継続を主張することはできないと解されている。

・実は、本件は実はY→Bへの第1売買によりYからBへ所有権が移転し、その際Yが寄託を受けて物を保管し、ついでB→Xという第2売買によりBからXへ所有権が移転したという経緯がある。つまりYとXは前主・後主の関係にあり、一般的な理解においても「第三者」に該当しないという処理ができた事例である。そのため、最高裁が大審院以来の態度を踏襲するものかどうかは判然としない面もある。

 

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民法判例まとめ22

2016-05-05 15:39:17 | 司法試験関連

背信的悪意者からの転得者

①   所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。

②   丙が背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないとされる場合であっても、乙は、丙が登記を経由した権利を乙に対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得を丙に対抗することができるというにとどまり、甲丙間の売買自体の無効を来すものではなく、したがって、丁は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならない

③   また、背信的悪意者が正当な利益を有する第三者に当たらないとして177条の「第三者」から排除される所以は、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄であるからである。

最判平成8年10月29日 百選57事件

・背信的悪意者は、主観的悪性ゆえに第三者であると「主張すること」を信義則上封じられるに過ぎない。第三者たる客観的地位まで失うわけではないので、この者からの転得者も、第三者たる客観的地位を有すると認められ、登記欠缺を主張して争うことが許されるのである。

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民法判例まとめ21

2016-05-05 12:12:16 | 司法試験関連

・原判決は,平成10年判例に引きずられた判断をした。「容易に知りえた」という事実から,「正当な利益を有さない」,という結論を導いており,背信的悪意であるとも述べていないのである。この判断を最高裁は破棄した。本件の場合は,背信的悪意アプローチを取るべきことを明らかにしたのである。

・背信的悪意者排除論を維持し(悪意+αの信義則違反アプローチ),時効取得の場合には,「多年に渡る占有継続」の事実の認識によって,「悪意」要件は充足され,時効完成に必要な全ての事実を認識している必要は無い,ということである。

・本判決の直接の射程は「時効による所有権取得の対抗問題」に限定されているのは,その理由付けから明らかである。「時効完成に必要な期間」ではなく,より曖昧な「多年に渡る」占有継続に対する認識を問題にしているのも特徴的である。「長期間継続する占有利用関係」の尊重という価値判断が見て取れる。「多年に渡る」という言い回しからは,「時効の成否」は必ずしも本質的ではないと見ることもできよう。

・本判決の発想は,「取得時効以外のケース」にも波及していくのだろか。

→ 「悪意」であることを不可欠の要件とし,取得時効の成否については,「その要件の充足の有無が容易に認識・判断する事ができないものである」ことを考慮し,取得時効の場合に限って,悪意の要件の認定を緩和したに過ぎない

→ また平成10年判決の法理にのった原審の判断を破棄した理由は,同判決の法理は,「非排他的な権利である通行地役権に限って適用されるものであり,所有権の帰属を巡る紛争には適用にならない」,ということにあろう。したがって,限定的な影響しかないと見るのが素直である(鎌田)

→ 通行地役権や取得時効の場合に存する類型的事情に照らした判断である事は間違いないが,売買による不動産所有権取得の対抗の可否についても,第三者の主観的事情だけではなく,取得者側の事情(代金支払の状況,取得者への引渡の有無,取得者による不動産利用の状況など)と第三者によるその事情の認識可能性の程度を勘案して,第三者による登記欠缺の主張の許否が判断されるのではないか(佐久間)

 【事案の処理】

所有権の時効取得については,登記が無いので結局負けるものの,通行地役権の時効取得に関しては,登記なくして対抗できる,というケースがありうるので注意である。

→ 「所有権」関係は,登記が無い場合,相手方は背信的悪意者である,という主張を平成18年判例に則って主張する。

→ 「通行地役権」関係は,登記が無い場合,相手方の認識可能性をもって平成10年判例に則って主張するわけである。

【平成10年「認識可能性」パターンと平成18年「背信性」パターン】

二重譲渡や,18年判決の事例のような,所有権取得者相互間の紛争類型

双方の物権変動が非両立の関係にある。悪意者による第2契約の締結は,それ自体が先行取得者の権利を必然的に否認する契機を持つ。このような場合に「正当な利益を有しない者」という判断をするには,第三者の契約締結時における「悪意+α」を軸にした信義側違反アプローチの枠組みがフィットする。

 

通行地役権などの用益権の場合

用益権の存在を認識しながら不動産を譲り受ける行為は,それ自体は何ら非難に値しない。通行地役権自体も,承役地の排他的な占有権限を当然に与えるようなものではない。つまり地役権者の利用利益と承役地所有者の占有利用利益は両立しうる。したがって,契約締結時における主観はあまり重要ではない(非難可能性の問題ではないからである)。譲受人が権利を行使して未登記地役権を否認する時点における客観的利益衡量が判断の中心に来るので,契約締結時における第三者の主観的態様が主軸にはならない(考慮対象にはもちろんなるが),と言えるのである。

 

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