練習オタクの日々

3日ぼうずにはしたくありません!この日記とピアノのお稽古。練習記録とその他読書などの記録をつけておきます。

『カンガルー日和』 村上春樹

2007-08-08 | 読書
何度読んだか分からないけれど、また繰り返し読んでみる。
1980年代前半に書かれた作品集なので、かなり初期の村上春樹である。

今でこそ、これに似たスタイルの小説は星の数ほどあるが、
当時はやっぱり「こんなの読んだことない!」と思ったものだった。
クールでシュールで、まるで「あとはご自由に!」とでも言わんばかりに読者に放り投げられっぱなしのラスト。

そしてこの短編集には私的な名作の
「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」
が入っているではないの!
その話の存在すら忘れていたけれど、また読み返してみると、
相変わらず「私的に」名作だった。

100パーセントの女の子(女の子にとっては男の子)に出会うことの幸福感と出合ってしまったことで生ずる不安感。
そしてなにがなんでも・・・という気持ちが希薄な青春時代の向こう見ずさとか余裕とかぼんやり感。
一度失ってしまうと二度とは手に入れることのできない悲しみ。
その悲しみを自覚すらしない人の心の鈍感さ。
でも、世界のどこかには未だに100パーセントの女の子が存在している、という自己完結的な幸せと安心。
でも、それに固執しないクールさと分別。

ほんの短いこの話を読むことで20年前の私はいろんなことを思ったし、
20年たった今の私もいろんなことを思うことができる。

初期の村上春樹って今読み返してみるとちょっと恥ずかしくなるような作品もかなり多いけれど、
この短編は今読んでも変わらずによかった。