今年はモーツァルトイヤーだし(って何回書いているんだろう
)『ケッヘル』ってなんてタイムリーなんだろう、と思い、内容も作者の他の作品も何一つ知らずに読み始めた。お堅いクラシック小説なのかなぁ、とも思いあまり期待しないで読み始めたが・・・いえいえ、かなり私的には面白かった。
エンターテイメント小説のあらゆる要素がこれでもか、と詰め込まれたようななんとも豪華な小説、という印象。
主な登場人物は一人の女と初老の男。
女は結婚しているにもかかわらずこちらも結婚しているある人を愛してしまい、逃亡の身である。その恋愛の相手とは大物政治家の妻、つまり彼女はレズビアンであった。彼女はしかし、奪いとった女からの愛情にも負担を感じ、国外へ逃亡する。政治家からは命も狙われているので日本には帰れない。
一方初老の男はその生い立ちから語られる。
彼の父は高名な(高名だった)音楽家。母は才能あるピアニスト。彼は父の気まぐれな恋愛の末に生まれた私生児だった。
父はモーツァルトに耽溺しすぎるあまり、普通の音楽活動を続けることを拒否し、その結果職を失ってゆく。母もやがて体を壊して死んでしまう。
父に「誘拐」されて日本各地を転々と放浪する親子。目的地を決めるてがかりはモーツアルトの音楽のケッヘル番号任せだった。
父と母の血を受け継いだ音楽の才能とサバイバル能力、やがて少年に成長した彼は名門高校に入学する。
時は経ち、初老となった男がつくったアマデウス旅行社というモーツアルティアンのための旅行会社に件の女が拾われるところから物語は始まるのだが・・・。
上下巻に分かれた小説なのだが、下巻に入ると「えっ!!これってサスペンス小説だったの?」と驚くような展開となる。
上巻ではケッヘル番号は父子の放浪の旅の道しるべとなるのだが、下巻では連続殺人事件の深い意味を持った番号となっている。
推理小説的な側面から読むと、あれ??そうなっちゃうの?と疑問を感じる部分もあったけれど、物語に出てくる数々のモーツァルトの音楽を楽しむのもよいし、登場人物の波乱万丈な人生を読み進めるのもよいし、次々と起こる連続殺人事件に背筋を凍らせるのもよいし、なかなか読み応えのある一冊だった。