ものすごく話題になっているので、お読みになった方もたくさんいらっしゃると思います。
読ませ方、文章の書き方、物語の組み立て方としては秀逸です。
ある女性教師の終業式での生徒への語りかけから始まり、1章ごとに彼女にかかわるさまざまな人物の告白という形で物語がすすみ、いったいこの話はどうなるんだろう、と息をつくひまもなく、先を読みたいという気持ちにさせます。
そもそも第1章の教師の告白からして衝撃的なのですから。
自分の小さい娘は事故で死んだのではなく、この教室にいる人間に殺されたのだ、と告白するところから物語が始まります。
賛否両論あると思いますが、私としては読後感はあまりよくありませんでした。
告白がつづくにつれ、語り手の人物が持つ悪意がとめどもなく流れてくる感じがします。
悪意でなければ、空気がよめない鈍感さとか。
なんか、救いのない話だなぁ・・・と思いましたが、それでも、この小説を読んで、いろいろ思うところはみな持つと思います。
私が思ったのは、ある犯罪に対して、あまりにも早く制裁を与えてしまう、罪を確定してしまうのは果たして是なのだろうか、ということです。
物語中、女性教師は、冒頭の終業式の教室で、あまりにも衝撃的な方法で、自分の娘を殺した人物に自らの手で裁きを下してしまいます。
それがきっかけで、まるで悪の連鎖のように次から次へと事件が起きてしまいます。
教師の望んだことはこれだったのか、それすらはっきりしないまま物語は終わってしまいます。
もちろん日本は法治国家なので、きちんと法にのっとった裁きが下されるのが正当ですが、審議のスピード化をねらった陪審員制度の是非もこの点からも熟慮されるべきかもしれません。
長引く裁判は問題も多く含んでいますが、人間の感情をクールダウンさせ、冷静な判断とそれを受け入れる勇気を生み出すための時間はある程度必要なのかも、と、やや話が横道にそれたかもしれませんが、この話を読んで思いました。