ムンク展に行ってまいりました。
「ムンク展」
国立西洋美術館
2007年10月6日(土)~2008年1月6日(日)
ムンクといえば、私が知っていたのは、あの「叫び」に代表されるような絶望感が強く感じられるような絵画作品だけでしたが、今回の展覧会を鑑賞して、ムンクの新たな面を知ることができ、大きな収穫があったと思います。
今回の展覧会で特に大きなテーマとなっていたのはムンクの作品における「装飾性」です。
つまり、個々の作品を独立して見るのではなく、あるテーマに沿った一連の作品をムンクが制作し、全体としてひとつの大きな作品という位置づけをして、実際にさまざまな場所に展示されていた様子を再現して、その「装飾性」に光をあてようという試みです。
ムンクの一連の絵が飾られていた、また、今でも飾られている場所というのは、個人の邸宅であったり、工場の食堂であったり、大学構内であったりといろいろですが、どこも美術館のような非日常の空間ではなく、実際に人々が生活する場所ばかりです。
「ムンクの絵に囲まれて生活するなんて・・・・落ち込みそう・・・」というのが、「叫び」しか知らない私の最初に感じたことでしたが、今回の様々な展示を観て、それが誤解であったことがよく分かりました。
ムンクの絵は確かに、「死」とか「不安」といったものを表現している作品が非常に多いです。
戦争続きの時代が強く影響していることもあるでしょうし、ノルウェーという地理的要因もムンクの精神世界になにかしらの影響があったとも考えられますし、幼い頃に近しい家族を立て続けに失ったということも彼に「死」の観念を強く印象づけたのでしょう。
そしてムンクの装飾性を持った絵画群の話に戻ります。
その変遷をみてみると、ムンクという人物の心の移り変わりが見てとれるようでいて、とても興味深かったです。
初期の頃には、「叫び」のような不安要素が連想される作品を依頼し、自宅の壁に飾った人もいたようです。
私はそのような絵に囲まれて暮らすのはちょっと心穏やかではなくなりそう、とは思いますが、ムンクの大ファン、コレクターであればそれも喜びかもしれません。ムンクといえば、ノルウェーが誇る画家であったはずですから、光栄なことでもあったでしょう。
そしてノルウェー国内での地位を確固たるものにしたムンクに、様々な人からの創作の依頼が入ります。
彼に子ども部屋の壁を装飾するよう依頼した人もいました。その時の条件として、「幼い子どもに悪影響を与えるような、性的な絵は描かないで欲しい」というものがあったそうです。
しかし、ムンクは明るい昼間の公園で接吻をする何組もの男女の姿を描いてしまいます。
結果、子ども部屋には不適当、ということで、何枚もの素晴らしい絵は依頼主からつき返されてしまったそうです。
なんだかムンクの頑固な性格、自分に対する自信満々さが想像できるようなエピソードで思わず笑ってしまいました。
それに、子どもには不適当、とされた絵は確かにキスをしている何組もの男女が描かれていますが、夜の公園ではないので淫靡な雰囲気は全くなく、とても明るくてよい画なのです。その他の作品も、子ども部屋、という依頼にきちんと応えている、明るいトーンの綺麗な絵ばかりでした。このような作品もムンクは描いていたのか、と新しい発見でした。
また、チョコレート工場の食堂の壁を装飾する絵画群、オスロ大学の講堂を飾る絵画群などは、とてもアカデミックな雰囲気で、その場所その場所にとてもふさわしいテーマ、色調、雰囲気の絵です。
自分の本能のままに描いていたわけではなく、依頼に応えた作品をきちんと描けるという職人的な一面もムンクにはあったのですね。
そして、今回の展覧会の最後のお部屋はオスロ市庁舎の壁画の展示でした。
それらの画はおよそ私が知っていたムンクの画やイメージとはまるでかけ離れたものばかりでした。
労働者を描いた画なのですが、とても力強く、働く人たちを誇る気持ち、労働の気だかさなどが感じられる、非常にダイナミックな作品でした。
ムンクの展覧会ということで、負のエネルギーにあふれているだろうなぁ、という誤解をもって向かった私でしたが、最後にこのお部屋の画を見て、逆にとても前向きな気持ちで展覧会を後にしました。
帰宅してからムンクに関する文献なども読んでみましたが、アルコール中毒の治療を受けた後あたりから彼の画風はがらっと変わってきたようです。
暗いばかりではない、一人よがりなだけの画家ではない、ムンクの新しい一面を知ることができた展覧会でした。
「ムンク展」
国立西洋美術館
2007年10月6日(土)~2008年1月6日(日)
ムンクといえば、私が知っていたのは、あの「叫び」に代表されるような絶望感が強く感じられるような絵画作品だけでしたが、今回の展覧会を鑑賞して、ムンクの新たな面を知ることができ、大きな収穫があったと思います。
今回の展覧会で特に大きなテーマとなっていたのはムンクの作品における「装飾性」です。
つまり、個々の作品を独立して見るのではなく、あるテーマに沿った一連の作品をムンクが制作し、全体としてひとつの大きな作品という位置づけをして、実際にさまざまな場所に展示されていた様子を再現して、その「装飾性」に光をあてようという試みです。
ムンクの一連の絵が飾られていた、また、今でも飾られている場所というのは、個人の邸宅であったり、工場の食堂であったり、大学構内であったりといろいろですが、どこも美術館のような非日常の空間ではなく、実際に人々が生活する場所ばかりです。
「ムンクの絵に囲まれて生活するなんて・・・・落ち込みそう・・・」というのが、「叫び」しか知らない私の最初に感じたことでしたが、今回の様々な展示を観て、それが誤解であったことがよく分かりました。
ムンクの絵は確かに、「死」とか「不安」といったものを表現している作品が非常に多いです。
戦争続きの時代が強く影響していることもあるでしょうし、ノルウェーという地理的要因もムンクの精神世界になにかしらの影響があったとも考えられますし、幼い頃に近しい家族を立て続けに失ったということも彼に「死」の観念を強く印象づけたのでしょう。
そしてムンクの装飾性を持った絵画群の話に戻ります。
その変遷をみてみると、ムンクという人物の心の移り変わりが見てとれるようでいて、とても興味深かったです。
初期の頃には、「叫び」のような不安要素が連想される作品を依頼し、自宅の壁に飾った人もいたようです。
私はそのような絵に囲まれて暮らすのはちょっと心穏やかではなくなりそう、とは思いますが、ムンクの大ファン、コレクターであればそれも喜びかもしれません。ムンクといえば、ノルウェーが誇る画家であったはずですから、光栄なことでもあったでしょう。
そしてノルウェー国内での地位を確固たるものにしたムンクに、様々な人からの創作の依頼が入ります。
彼に子ども部屋の壁を装飾するよう依頼した人もいました。その時の条件として、「幼い子どもに悪影響を与えるような、性的な絵は描かないで欲しい」というものがあったそうです。
しかし、ムンクは明るい昼間の公園で接吻をする何組もの男女の姿を描いてしまいます。
結果、子ども部屋には不適当、ということで、何枚もの素晴らしい絵は依頼主からつき返されてしまったそうです。
なんだかムンクの頑固な性格、自分に対する自信満々さが想像できるようなエピソードで思わず笑ってしまいました。
それに、子どもには不適当、とされた絵は確かにキスをしている何組もの男女が描かれていますが、夜の公園ではないので淫靡な雰囲気は全くなく、とても明るくてよい画なのです。その他の作品も、子ども部屋、という依頼にきちんと応えている、明るいトーンの綺麗な絵ばかりでした。このような作品もムンクは描いていたのか、と新しい発見でした。
また、チョコレート工場の食堂の壁を装飾する絵画群、オスロ大学の講堂を飾る絵画群などは、とてもアカデミックな雰囲気で、その場所その場所にとてもふさわしいテーマ、色調、雰囲気の絵です。
自分の本能のままに描いていたわけではなく、依頼に応えた作品をきちんと描けるという職人的な一面もムンクにはあったのですね。
そして、今回の展覧会の最後のお部屋はオスロ市庁舎の壁画の展示でした。
それらの画はおよそ私が知っていたムンクの画やイメージとはまるでかけ離れたものばかりでした。
労働者を描いた画なのですが、とても力強く、働く人たちを誇る気持ち、労働の気だかさなどが感じられる、非常にダイナミックな作品でした。
ムンクの展覧会ということで、負のエネルギーにあふれているだろうなぁ、という誤解をもって向かった私でしたが、最後にこのお部屋の画を見て、逆にとても前向きな気持ちで展覧会を後にしました。
帰宅してからムンクに関する文献なども読んでみましたが、アルコール中毒の治療を受けた後あたりから彼の画風はがらっと変わってきたようです。
暗いばかりではない、一人よがりなだけの画家ではない、ムンクの新しい一面を知ることができた展覧会でした。