ブログ日和。

映画と、『ER緊急救命室』『ザ・ホワイトハウス』などの海外ドラマと、世間に対してのツッコミを徒然に書いていきます。

『ヒトラー ~最期の12日間~』

2005-08-23 21:40:02 | 映画
新宿武蔵野館にて。公開から1ヶ月半ぐらい経つのに、場内満員。大学の授業でヒトラーユーゲントについてやっていたので、是非とも観たい作品だった。

物語は、1942年、ヒトラーがユンゲを秘書として採用するところから始まる。そして2年半後、ソ連軍に追いつめられたヒトラーや高官は、ベルリンの首相官邸地下の要塞に逃げ込む。劇中、全盛期の演説シーンなど、いわゆるステレオタイプの「ヒトラー」は出てこない。いるのは、すっかり老け込みヒステリーを起こす総統だ。あまりに事が大きくなりすぎて、もうどうにもできずに、苦悩する。どんな強気に叫んでいても、常に震えている左手が、彼の不安を示している。

誰もやりたがらない「悪役」を人間として演じたブルーノ・ガンツは偉い。子どもたちの歌声に微笑み、女性にはとても丁寧で紳士的なヒトラーの側面が、絶対悪の存在を否定している。バッシングはあろうとも、監督の勇気に拍手したい。絶対悪を認めてしまえば、ヒトラーのユダヤ人に対しての理論と同じになってしまう、ということを訴えたいのだろう。

しかし、地上では、阿鼻叫喚の戦闘が繰り広げられているのに、地下では奇妙な静寂があり、かと思えば、飲めや歌えやの大騒ぎ。同じ場所なのに、この状況の落差に窮鼠の狂気を感じてしまう。

ヒトラーの自死は、分かっている結果だったから、それほど動じなかったかれど、その後、首相に就任したゲッベルスの妻が、子どもたち一人ひとりに毒薬を飲ませるシーンは衝撃だった。息を引き取ったのを確認するとシーツを引き上げ顔を隠そうとするのだが、子どものたちの素足が映り、非情さと切なさが胸を打つ。

憔悴したヒトラーがこう言う。「国民に同情はしない。あいつらが選んだのだから。」選挙の近い時期に、身につまされるセリフだった。