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原発事故はなぜくりかえすのか(岩波新書)~高木仁三郎さん

2011-07-24 | 

この本の発行日は今年4月5日。
タイトルを見ると、東電福島第一原発の事故を題材にしたようなタイミングで出版されましたが、実は初版は2000年12月。しかも、著者の高木仁三郎さんはその年の10月にがんで亡くなっていて、没後の出版なのです。

 

苦しいがん治療の病床で、最後に残しておきたいと、岩波新書『市民化学者として生きる』を上梓したあとの1999年9月、JOCの臨界事故が起こり、被曝した作業員2名が亡くなりました。

高木さんにはさらに「書き残しておきたいこと」が生まれのですが、この『原発事故はなぜくりかえすのか』はもはや執筆する力もなくなっていて、口述された録音テープから書き起こされたものです。


大学で核化学を学び、原子力産業の礎を築こうという位置に一度は身をおいたあと、高木さんは反原発運動に方向を変えます。

「議論なし、批判なし、思想なし」の組織が原子力に関わるのはあまりにも危険すぎると考えたからです。


放射能をきちんと知らないで原子力を利用して現代を生きていこうというのは無理です。

という言葉は私たち一般人にもでしょうが、原子力を推進している専門家たちに向けられた言葉なのです。

巻末の、友人に向けて遺したメッセージを全部書き写したいところですが、一部を抜粋します。


友へ 高木仁三郎からの最後のメッセージ

・・・(略)・・・

残念ながら、原子力最後の日は見ることができず、私の方が先に逝かねばならなくなりましたが、せめて「プルトニウム最後の日」くらいは、目にしたかったです。でも、それはもう時間の問題でしょう。すでにあらゆる事実が、私たちの主張が正しかったことを示しています。なお、楽観できないのは、この末期症状の中で、巨大な事故や不正が原子力の世界を襲う危険でしょう。JOC事故からロシア原潜事故までのこの一年間を考えるとき、原子力時代の末期症状による大事故の危険と結局は放射性廃棄物がたれ流しになっていくのではないかということに対する危惧の念は、今、先に逝ってしまう人間の心を最も悩ますものです。

・・・(略)・・・

いつまでも皆さんとともに 高木仁三郎

高木さんの死後11年経って、初期に建てられた原発はますます老朽化し、事態が好転しているとはとても思えない現実が恐ろしいです。

 

 

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