翻訳小説を読んだのは久し振りです。
カズオ・イシグロさんはアンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンで映画化され、アカデミー賞にも8部門でノミネートされた「日の名残り」の原作者として、関心をもっていましたが、作品を読んだのは初めてです。
5編の物語の舞台は外国、それも、ベネチア、ロンドン、モールバンヒルズ(イギリス)、ハリウッド、アドリア海に面したイタリアの町という設定で、登場人物はすべて外国人です。副題のとおり、「音楽」が聞こえ、「(人生の)夕暮れ」が身を包みます。
訳者が書いたあとがきにこんな記述がありました。
昨年末以来、水村美苗『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』(筑摩書房)が話題になっている。イシグロのように、何か書けば必ず翻訳されるだろうという前提に立てるのは、水村のいう「普遍語」で書く作家のアドバンテージではあろう。そこに安住しないところに作家としてのイシグロの誠実さが見えるのだが、訳者としては、翻訳のことは翻訳者に任せ、英語の特性をとことん駆使した作品を書いてみてほしいという思いもある。
カズオ・イシグロさんは1954年、長崎生まれ、5歳のとき、父親の仕事の関係でイギリスに渡ります。
水村美苗さんは1951年、東京生まれ、12歳のとき、アメリカに渡ります。
お2人はほぼ同世代。イシグロさんはのちにイギリスに帰化、英語で小説を書き、水村さんは日本語で小説・評論を書き、それぞれが著名な文学賞を受賞します。
同じような境遇に育った人が、いずれ複数の言語で物を書き、複数の国で賞をとる時代がくるかもしれませんね。
やはり、英語圏の人にはアドバンテージがありそうです。
別々に図書館にリクエストした本が一緒に手元に届きました。
何か因縁を感じた2冊です。