やあやあやあ、読者諸賢ご機嫌よう。ハウリンメガネである。
「聴いた?」
「何を?」
「やだなぁ、『ハックニー・ダイヤモンド』!ストーンズの新譜!』
「いや。」
「えっ、なに?聴いてない?えぇぇぇ~」(露骨に嫌な顔)
上記は読者への問いかけではない。
うちの編集長と交わした会話である!
「ラジオで今回のシングル聴いたけど別にそうでもないしさぁ」やら「今すぐ聴く必要性も感じないしさぁ」やら「まだ聴き直してないストーンズのいい未発表音源も山ほどあるしさぁ(これはまあ正論)」やら・・・・
「そりゃあんたはベテランですから、そう云うでしょうというけども!」というやりとりがあったのがつい先日のこと。
(編集長視点での会話はこちらのバックナンバーを参照 ↓ )
https://blog.goo.ne.jp/12mash/e/589bfbd6e909fc2043606ea607943005
こちらとしては「どう聴いた?」という会話を楽しもうとしていただけに、肩透かしを食った形となり、つい、「いや、こうでああでこういう話で……ええい、お買いなさい!」と説教にも似た熱弁をしてしまったのだが、別に私も新譜の出来に期待していた訳ではない。出来がどうであれ最初から御布施のつもりで買うのは決めていたから買ったまでだ。
家でアルバムに針を落とすまで先行シングルも一切聴かなかったし、「これでダメな出来ならそれもまたストーンズの歴史の1ページまでよ・・・」というつもりで買い、「さあて、どんなものかね。」という程度の気分で針を落としたのだが……良かったんだなぁ、これが。
というわけで、そんな気分で本作を聴いた私が何故本盤を編集長に熱弁するに至ったのか、一曲一曲紐解いてみようではないか。
A1.Angry
今回の冒頭の会話の原因となったリードトラック。
編集長がラジオで聴いたというのがこれだと思うが、そりゃ確かにこれだけ聴いたら「うーん、別に急いでアルバムを聴く必要もないなぁ」と思っても仕方がないとは思う。
別に悪い曲ではない。寧ろストーンズのパブリックイメージからいえば「らしい」曲だ。「アンダー・カバー・オブ・ザ・ナイト」を思い起こさせるベースの入りやギターのカッティングも悪くない。が、そういう曲ならもう彼らにはいくらでもある。つまり、レッドオーシャンでの戦いを強いられるわけだ。となると過去の名曲に軍配が上がるのは致し方あるまいよ。
だが私は何度も盤を回しているうちにこの曲のある種の「ユルさ」が癖になってきた。う〜ん、嫌いじゃない。
A2.Get Close
これ。この曲で一気にこの盤の印象が変わる。
ドラムが刻むスクエアなビートに乗って、ギターが物憂げなコードを鳴らした瞬間に私はダイナソーjr(筆者の好きなアメリカのオルタナロックバンド)を思い出していた。
そう、音像がアメリカンロックなのだ。
後述するがA面はある意味でストーンズらしいサウンドプロダクトから外れた音になっている。これは今回プロデューサーとして参加したアンドリュー・ワット(弱冠33歳!オジーやイギーポップ、パール・ジャムのエディ・ヴェダーのソロのプロデューサーとして活躍し、ポール・マッカートニー師匠の新作にも関わっている様子)の手腕だろう。そうそう、中間のサックスソロもボビー・キーズを思い出すエモーショナルなブロウで素晴らしい。
A3.Depending On You
カントリーフレーバー溢れつつ、泣きのメロディがグッとくるロックバラード。
後ろで鳴るロニーと思わしきスライドギターが効いている。
ストーンズのバラードってあまり泣きのメロディのイメージがない(カラッとしているイメージ)のだが、この曲のメロディは日本人なら好きな人、多いんじゃなかろうか。
A4.Bite My Head Off
ポール・マッカートニー師匠がベースで参加している疾走感溢れるパワフルなロックチューン。
「ピストルズですか?」といいたくなるような勢いでガツガツと鳴らされるギターとスティーヴ・ジョーダンのパワフルなドラムがベストマッチ!
途中から入るオクターバーがかかったギターのようなシンプルかつ印象的過ぎる低音のソロはポール?ポールなの!?このフレーズだけで一気に曲が締まって聴こえるんだよ!ちょっと「ヘルター・スケルター」っぽさも感じる1曲。
A5.Whole Wide World
「ワン・ヒット(トゥ・ザ・ボディ)」を思わせるダーティーなリフが支配するヴァースから開放感に溢れたサビへの移行が気持ち良すぎるご機嫌なロックチューン。
途中のブレイクでリズムが少し崩れて聴こえる(実際は崩れてない)アレンジがライブでのストーンズを想起させてこれまたグッド。
個人的に3度登場するモジュレーションのかかったギターソロが大変エモーショナルで良い!これぞエモーショナル・レスキュー♪って感じ(笑)
A6.Dreamy Skies
アコギのスライドが心地よい、A面を〆るストーンジーなフォークブルース。ミックのハープもミシシッピフレーバーに満ちていてよい。
そういえば今作、アナログは最近多い2枚組ではなく1枚組(1枚の場合、組っていうのか?)なのだが、やはりストーンズはこのあたりをよく分かってらっしゃる。2枚組のほうが音質は上がるが、この1枚のA面、B面で区切られるのがちょうどいい塩梅なんだよな。こういう曲をA面の〆にちゃんと入れるセンスに拍手!
盤同様、一旦ここで区切ろう。
ここまで回した時点で私は「これは予想外にいいぞ!?」と思った。いい意味でストーンズらしくない音になっているのだ。正確にいえばストーンズらしさはきちんとあるのだけど、音像がアメリカ寄りというか、今までのストーンズの音とはどこか違って聴こえるのである。
これは先述の通り、プロデューサーのアンドリュー・ワットの手腕にもあろう、それと同時にチャーリーの不在も大きく関係していると思う。
「ストーンズの番長であるチャーリーの不在をどうすればマイナスに聴こえないようにできるか」そこにトライしているのがA面のように思う(故にストーンズというより、ジャガー・リチャーズ・アンド・ウッド的に聴こえるようにも思う。あ、今回ミックの歌がとても良い。今まで以上に伸び伸び歌っているように聴こえる)
が、私はこの音、好きだ。とても好きだ。ストーンズの新しい一面が見えていると思う。齢80を超えて、まだ新しい一面が見えるってのはすごい事だぜ?
よし、盤をひっくり返せ。B面、行ってみよう!
B1.Mess It Up
「女たち」の頃のストーンズを彷彿とさせるダンサブルなナンバー。
チャーリーが生前に残したドラムトラックが使われており、本作中一番アッパー感のあるナンバーに仕上がっている。個人的にこっちをシングルカットしたほうがよかったのでは?と思うぐらいイイ仕上がりなのだが何故・・・?
どうやらクラブ向けにリミックスバージョンが出ている模様(実際、「そうだろうね!」といいたくなるぐらいダンサブル)。
B2.Live by the Sword
これもチャーリーが残したドラムトラックが使われているのだが、そこにビル・ワイマンがベース、エルトン・ジョンがピアノで参加という贅沢なナンバー。ちょっとレゲエのダウンビート感が混ざったリズムがいい。
これとB1.を聴くとやはり「ストーンズをストーンズらしくしていたのはチャーリーのドラムなんだなぁ」と思わざるを得ない。ストーンズらしいんだ、やっぱり。フィルの入るタイミングとかキースとのコンビネーションとか。
B3.Driving Me Too Hard
これはジョーダンがドラムを叩いているはずなのだが、不思議とB1.から続けて聴くと不思議とチャーリーのドラムのように聴こえる瞬間があるから面白い(もちろんよく聴けば違うんだけど)。
明るい曲調に混ざるセンチメントなギターのリードフレーズが涙を誘う。
B4.Tell Me Straight
キースのボーカル曲!これは嬉しい!
キースの歌う曲は大好きだ。寂しげで美しい、どこかフワフワと着地点の見えない揺蕩うようなメロディがキースの声にはよく似合う。
そんな歌メロに呼応するような儚げなギターソロも短いながら美しい。
B5.Sweet Sounds of Heaven
鍵盤にスティーヴィー・ワンダー御大、コーラスにレディー・ガガを招いた本作中最長7分超えのソウルバラード(コーラスはリサ・フィッシャーの姐御を呼べばよかったのでは?という疑問が浮かんだりもするが、それはそれ、これはこれ。リサ姐さんもストーンズから離れて久しいしねぇ)。
ジョーダンの叩くソウルフル&パワフルなドラムの上でワンダー御大の鍵盤と戯れるようなミックの歌とガガのレスポンスはこれはこれで好し・・・なんだけど、どうしても頭の中でリサ姐さんの歌が聴こえてくるんだよなぁ・・・あ、いかんいかん。ないものねだりはよくないネ~。
B6.Rolling Stone Blues
これです。これで決定的にヤられました。ローリング・ストーンズというバンド名の由来であるマディ・ウォーターズ御大の「ローリング・ストーン」でございます。
これは絶対キースだろ!と思われるズブッ、ズブッと泥沼に足を突っ込むようなアコースティックブルースギター(これはアコギと呼んじゃいかんでしょ)にミックの歌とハープが絡みつく名演です(多分ミックとキースだけで録ってる)。
正直この曲のためだけにこの盤を買ってもいい。最後にこれが聴こえた時点で「ああ、買ってよかった」と思ったもの。
最後の最後はやっぱりこれなんだ。ストーンズはロックバンドじゃない。ブルースをやろうとしてロックに「なってしまった」のがストーンズなんだ。でも、ついに「やった」んだ。この人たちは「ブルースをやった」んだ。
以上12曲、ちゃんと良かったのである。
いや、確かにベテラン(編集長に限らずベテランの音楽ファンのことね)の言いたいことはわかる。
チャーリーもいなくなった今のストーンズはストーンズではないという意見もそれはそれでわかる。
昔のストーンズの音を掘り下げるほうが発見が多いというのもそれはそれで正しい。
ではこの盤は不要なのか?ストーンズの最新盤はただの過去の焼き直しなのか?
否である。
なぜならミックもキースもロニーも未だにストーンズたらんと走り続けているからである。
その足跡として今回の『ハックニー・ダイヤモンズ』は見事なまでに輝いている。
痛々しさも悲壮感も全くない痛快なロックアルバムをこの人たちはきちんと作った。
バンドの重心を失ったことを寧ろ武器に変え、未だに走り続けようとしているこのバンドの最新作を聴かない理由があるか?
さあ買え!いま買え!すぐに買え!これぞ秋の味覚だ!(もちろんアナログ盤でな!)
そして、偉大なるローリング・ストーン達に盛大な拍手を!
・・・はよ来日してくれんかなぁ・・・
ハウリンメガネでした!じゃ、また!
《ハウリンメガネ筆》