幕末気象台

おりにふれて、幕末の日々の天気やエピソードを紹介します。

春一番の語源  これが真説でなければ歴史学は成り立たない・・・であろう。

2009-01-23 19:23:29 | Weblog
 大寒が過ぎたばかりなのに、嘘のような暖かさになりました。
こうなりますと、気になるのは、春の訪れです。今年はいつ頃春一番が吹くのでしょうか。
春一番の語源には諸説がありますが、私は
池田市史資料編の稲束家日記に書かれた春一番の記事が最も古く、合理的なもののような気がします。資料としても、押しも押されもせぬ一級史料です。
以前、気象予報士会の会報「てんきすと」に投稿した記事を掲載してみます。


   春一番の初見と語源について
                             
 春一番の語源について、東京堂出版の「最新気象の事典」によると、諸説はあるとしながらも「安政六年(西暦1859年)壱岐の漁師五十三人が強い突風で遭難してから、猟師の間で春の初めの強い南風を、春一とか春一番というようになった。」という説を紹介している。
ところが、先日池田市史の史料編にある「稲束家日記」の天保二年一月十一日(1831年2月23日)に「晴天午ノ刻より雨、春一番東風」との記述を見つけた。天保二年は安政六年より二十八年前であり、壱岐の漁師の大量遭難より前に春一番という用語が使われていたことが明らかになった。
また、同じ日記の安政二年一月八日の記事に、春一番ついての解説があったので引用する。

    江戸廻船人之通語ニ秋冬西北風かちのもの常也、江戸下日和は多ク上方へ登船少
    ク自然と江戸滞船多、春気の東風吹初待チ受登船多在之、因之春一番と唱

  とある。語源を壱岐の猟師の遭難にとると、主な意味として南よりの暴風といったイメ―ジが前面にでるが、本来の意味は冬の季節風(西よりの風)のため江戸で滞船を余儀なくされた船人たちが上方へ帰るために待ちわびた、春の初めに吹く強い東風だったようである。
ちなみに、各地の日記から作成した天保二年一月十日、十一日、十二日の天気分布は、十日は全国的に西よりの風で晴れ。十一日の正午には、日本海を通過中と思われる低気圧の進行に伴い、近畿以西で雨、中部、関東、北陸で曇り、東北、北海道では晴となっている。この低気圧に向かって東~南風が吹き込み、大阪府池田市で東風、東京都新島で東風のち南風、また、金沢市や上越市などで昇温が記録されている。低気圧のスピードは雨域の進行速度から、大ざっぱに、時速60キロくらいの模様で、翌十二日は北海道の厚岸町で「暁天より存外の大雨」となっており、低気圧は発達しながら日本海上を北東進し十二日の正午頃にはオホーツク海に抜けたと考えられる。
春一番が江戸大坂の廻船の船人の用語であったとすると、春一番という言葉の発生は十七世紀頃までさかのぼれる可能性がある。今後の史料発見に期待したい。

です。如何でしょうか。
なかなか定説の壁は厚いものです。
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村の陰陽師の見た、開国経済の功罪

2009-01-09 20:25:45 | Weblog
 実は私、商人でして昨今の不景気大変気になります。
それはともかく、先日、武蔵村山市の陰陽師 指田摂津がかいた日記に開国後の世間の景気について書いた記事がありました。
教科書などでは、物価騰貴など悪い面を強調している傾向がありますが、指田氏は天保の飢饉の時と比較する事によって、むしろ開国後の経済を評価しています。
洞察の深さは、この頃の評論家、解説委員に引けを取りません。
では、指田日記、元治2年の大晦日12月29日の記事を、引用いたしましょう。

 異国人の交易始まりてより物の直い次第に高直に成り行き、古金一両は三両になり、諸色直段以前の三倍となり、米穀は天保酉と死の凶年と同じけれども、金銭の流通よろしく、世上普請、造作多くして、諸工賃の仕賃、漸々引上げけれども普請猶多し。天保の凶年には諸工人の手間をさげけれども、一人として頼む者なく、下々には屋根の漏るるのも葺かざるほどの事なり。又奉公人は山方より来る女は、無給金にて、食扶持、衣類計りにて先より連れ来る。当年此の辺の給金は男十二両諸色共、給金取り払いは十八、九両なり。女とても七、八両から十両の給金なり、、
 
 とあります。
この資料によりますと、幕末社会は活気に満ちたインフレーションの世界で、懐かしき昭和の高度成長期にも匹敵する時代だったのかも知れません。そういえは、岩波新書の「幕末・維新」(井上勝生著)にもそのようなことが書いてあったような気がします。
ちなみに、当日の武蔵村山市の天気は
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