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永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(83)その1

2018年09月12日 | 枕草子を読んできて
七〇   草の花は   (83)  その1  2018.9.12

 草の花は なでしこ、唐のはさらなり、やまともめでたし。女郎花。ききよう。菊の所々うつろひたる。かるかや。竜胆、枝さしなどむつかしげなれど、こと花はみな霜枯れたれど、いと花やかなる色合ひにてさし出でたる、いとをかし。わざと取り立てて、人めかすべきにもあらぬさまなれど、かまつかの花、らうたげなり。名ぞうたてげなる。雁の来る花と、文字には書きたる。
◆◆草の花はなでしこが良い。唐なでしこは言うまでもない。日本の大和撫子も素晴らしい。女郎花(おみなえし)。ききょう。菊が霜に当たってところどころ色が変わっているの。かるかや。りんどう、これは枝振りなどはわずらわしいけれど、他の花がみな霜枯れてしまっているけれど、たいへん色鮮やかに、ぱっとした色合いで顔を出しているのは、たいへんおもしろい。わざわざ取り立てて扱うべきでもない様子だけれど、かまつかの花は可憐な様子である。ただ名前がいやな感じである。雁に来る花、と文字には書いている。◆◆

■唐のは=唐のは「石竹」、大和は「河原撫子」
■菊=菊は中国渡来の草本。上代の文献には見えない。
■竜胆(りゅうたん)=りんどう。



 かるひの花、色は濃からねど、藤の花にいとよく似て、春と秋と咲く、をかしきなり。つぼすみれ。同じやうの物ぞかし。老いていけば、をしなど憂し。しもつけの花
◆◆かるひの花は、色は濃くはないけれど、藤の花に良く似ていて、春と秋に咲くのがおもしろいのだ。つぼすみれ。これは同じようなものだ。この花は老いていった場合、押し花などにするのはいやだ。しもつけの花◆◆

■かるひの花=未詳。現在の岸菲(がんぴ=なでしこ科)かというが、藤には似ない。
■つぼすみれ=すみれ科。花は白色で紫の筋のある小形の五弁花。窪地に多く生じるのでこの名があるという。
■をし=不審。「をし」は押し花か。



 夕顔は、あさがほに似て言ひつづけたる、をかしかりぬべき花の姿にて、にくく、実のありさまこそいとくちをしけれ。などて、さはた生ひ出でけむ。ぬかづきなどいふ物のやうにだにあれかし。されど、なほ夕顔と言ふばかりはをかし。
◆◆夕顔は、朝顔に似て、同じように並べて言いつづけているのはおもしろい花の姿ではあるが、それにもかかわらず憎らしく、実の格好こそよくない。どうしてそんなふうに生まれついできたものだろう。せめて酸漿(ほおずき)などという物のようであってほしい。けれど、夕顔という名だけはおもしろい。◆◆

■夕顔=実を干瓢ににする蔓草。
■にくく=文の続きが、やや疑わしい。
■ぬかづき=酸漿(ほおずき)。一説、今の千成ほおずき。