永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(193)

2017年05月27日 | Weblog
蜻蛉日記を読んできて(193) 2017.5.27

「頭の君、なほこの月のうちにはたのみをかけて責む。このごろ例の年にも似ず、ほととぎす『館をとほして』といふばかりに鳴くを、ここにも書く文の端つかたに、『例ならぬほととぎすの音なひにも、やすき空なく思ふべかめり』とかしこまりをはなはだしうおきたれば、つややかなることはものせざりけり。」
 
◆◆右馬頭はなおもこの月に望みをかけて責め立てます。この頃はいつもの年と違ってほととぎすが「館をとおして」と言うばかりにしきりに鳴いていると世間では鳴いています。私の方からの手紙の端に、「例年とは違ったほととぎすの鳴き方にも、なにやら心穏やかならず、物思いに沈みがちでございます」と恐れ慎んでいるふうに書いてやると、あちらからも艶っぽいことは言ってきませんでした。◆◆


「助、『馬槽しばし』と借りけるを、例の文の端に、『助の君に、〈ことならずは馬槽もなし〉ときこえさせ給へ』とあり。返りごとにも『馬槽は立てたるところありておぼすなれば、たまはらんにわづらはしかりなん』とものしたれば、かちかへりて『立てたるところはべなる槽は、けふあすのほどにうち臥すべき所ほしげになん』とぞある。」

◆◆助が、右馬頭から「馬桶をしばらく」といって借りようとしたところ、頭は、例の手紙の端に、「助の君に、『事が成就しなければ(結婚のこと)馬桶も貸せない』と申し上げてください。」と書いてあります。私からの返事にも「馬桶は条件付とのことでございますから、お貸しいただくと面倒なことになりそうでございますね」と書いて送ったところ、折り返し、「そちらで『立てたるところ』とおっしゃっているらしいその馬桶は逆に、今日明日のうちに『打ち臥すべきころ』が欲しそうでございまして……」と書いてあります。◆◆

■馬槽(うまぶね)=馬のかいば桶

■『館をとほして』=ほととぎすのするどい鳴き声が、邸宅を突き通すように鳴く。何か不吉な予兆か