永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(182)

2017年04月05日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (182)  2017.4.5

「廿五日に、大夫しも、ひんがしなどにそそきおこなひなどす。などぞすらんと思ふほどに司召しのことあり。めづらしき文にて、『右馬助になん』と告げたり。ここかしこによろこびものするに、その寮の頭、叔父にさへものしたまへば、まう出たりける、いとかしこうよろこびて、ことのついでに、『殿にものしたまふなる姫君はいかがものし給ふ。いくつにか、御年などは』と問ひけり。」
◆◆二十五日に、大夫(道綱)が、東の廂の間で熱心に勤行に励んでいます。なぜかと思っていると、司召しのことがあったのでした。あの人から珍しい手紙がきて、「右馬助になったよ」と知らせてきた。助があちこちに任官のお礼回りをしたときに、その役所の長官は叔父に当る方でもあったので、大変喜んでくださって、話のついでに、「お宅においでになるという姫君はどういうお方でしょうか。おいくつですか、お歳は」と尋ねるのでした。◆◆



「帰りて、『さなん』と語れば、いかで聞き給ひけん、なに心もなく、思ひかくべきほどしもあらねば、やみぬ。」
◆◆助が帰宅して、「これこれでした」と話すので、いったいどうしてあの娘のことを聞くのかしら、あの娘はまだまだ子どもっぽく、懸想の相手にされるような歳ごろではないからと思って、そのままにしておきました。◆◆



「そのころ院の賭弓あべしとてさわぐ。頭も助もおなじ方に、出居の日々には行きあひつつ、おなじことをのみの給へば、『いかなるにかあらん』など語るに、二月廿日のほどに夢にみるやう、(本)」
◆◆そのころ、院の賭弓(のりゆみ)のことがあるというので大騒ぎしています。長官も助も同じ組で、助が練習に出かける日ごとに、長官と顔を合わせると、その度に長官が同じことばかり仰るので、「どうしたことでしょうか」などと私に話していましたが、二月二十日ごろ、夢に見たことは、(以下本文脱落か)◆◆


■司召(つかさめし)=官吏の任命をいうが、特に京官任命の公事(くじ)をさす場合が多い。

■右馬助(むまのすけ)=右馬寮の次官。馬寮(めりょう)は宮中の御厩の馬・馬具・および諸国の牧場を司る役所。左右に別れ、長官をそれぞれ左馬頭(さまのかみ)、右馬頭(うまのかみ)という。

■叔父=藤原遠度(とおのり)=兼家の異母弟。道綱の叔父にあたる。

■院の賭弓(のりゆみ)=「院」は冷泉院。賭弓は宮中で弓射の試合をして天覧に供する行事。年中行事では一月十八日に行われる。ここはそれに準じて院でも行われ、冷泉院がご覧になる。

■(本)=原本のまま写したとの意の注記が本文に竄入(ざんにゅう)・この箇所に夢の記事があったと思われるがだつらくしたのか。底本、以下行末まで空白。一説では何人(なんぴと)かの故意の削除か。残念である。