永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(877)

2011年01月07日 | Weblog
2011.1/7  877

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(54)

 薫は、(大君のお心の中はご存知になれずに)

「宮の御ありさまなども問ひきこえ給へば、かすめつつ、さればよ、とおぼしくのたまへば、いとほしくて、おぼしたる御さま、けしきを見ありくやうなど、語りきこえ給ふ」
――匂宮の中の君へのご態度などをお尋ねになりますと、大君が匂宮の冷淡なことをそれとなく匂わせておっしゃいますので、やはりそう思っておいでなのかと、大君をお気の毒に思われて、宮が中の君を大そう深く思っていらっしゃることや、ご自分がそれとなく宮を観察していることなどをお話して差し上げるのでした――

 大君も、いつになく素直にお話しなさって、

「なほかく物おもひ加ふる程すごし、心地もしづまりてきこえむ」
――それでは、この気苦労の多かったこの頃を過ごしておりましたが、少し心も落ち着きましてから、いろいろとお話いたしましょう――

 と、おっしゃる。

「人にくく気遠くはもて離れぬものから、障子のかためもいと強し、しひて破らむをば、つらくいみじからむ、とおぼしたれば、おぼさるるやうにこそあらめ、軽々しくことざまになびき給ふこと、はた世にあらじ、と、心のどかなる人は、さはいへど、いとよく思ひしづめ給ふ」
――このように、(大君は)憎らしそうに疎ましそうには突き放してはいらっしゃいませんが、障子の戸締りだけは決して油断なさらないのを、薫は、無理に破っては、はしたなく、さぞやご気分を悪くされるであろうと思われますので、まあよい、大君には別にお考えがあるのであろう、軽々しく他の男に靡かれるようなこともあるまいから、と、ゆったりとした御気質の薫は、気安く構えていらっしゃるとはいえ、よくもまあ気持ちを抑えられていること――

「ただいとおぼつかなく、物隔てたるなむ、胸あかぬ心地するを、ありしやうにてきこえむ」
――このような物越しでお話申していますのは、物足りなく不満です。先夜のように、直接お話しいたしましょう――

 と、しきりにお責めになりますが、大君は、

「常よりもわが面影にはづる頃なれば、うとましと見給ひてむも、さすがに苦しきは、いかなるにか」
――この頃はいつもより面やつれしてしまって、お目にかかって見苦しい女と思われましては、それこそ辛うございます。これもまたどういう気持ちでございましょうね――
 
 と、ほのかに微笑んでおられる大君の気配から、幾分打ち解けられたようで、薫はいっそう恋しさが募るのでした。

◆かすめつつ=ほのめかす、ごまかす

◆わが面影にはづる頃=古歌「夢にだに見ゆとは見えじ朝な朝なわが面影に恥づる身なれば」を下書きとして。

では1/9に。