永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(876)

2011年01月05日 | Weblog
2011.1/5  876

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(53)

「姫宮も、折うれしく思ひきこえ給ふに、さかしら人の添ひ給へるぞ、はづかしくもありぬべく、なまわづらはしく思へど、心ばへののどかにもの深くものし給ふを、げに人は、かくおはせざりけり、と、見合わせ給ふに、あり難し、と思ひ知らる」
――大君も、丁度良い折に匂宮が来られたことに、ほっと安心され嬉しくお思いになりましたが、おせっかい者の薫が付き添っておられますので、やっかいな、また何か煩わしいことが起こりそうだとも思うのでした。そうはお思いになりながらも、薫のおっとりとして分別もおありになるお人柄は、匂宮とは違っていらっしゃると、お二人をおくらべになって、薫という方は世にも稀なる珍しいお方であるとお考えになるのでした――

「宮を、所につけては、いとことにかしづき入れ奉りて、この君は、あるじ方に、心やすくもてなし給ふものから、まだ客人居のかりそめなる方にいだし放ち給へれば、いとからし、と思ひ給へり。うらみ給ふもさすがにいとほしくて、物越しに対面し給ふ」
――匂宮へのおもてなしは、このような山里ながらも、手厚く心をつくして奥のお部屋にご案内し、こちらの薫には主人側として気楽にお取り持ちなさるのですが、とはいえ、客用の仮初のお部屋に遠ざけてお置きになるのを、薫はまことに辛いとお思いになっておられます。この事をお責めになるのもさすがに大君にはお気の毒と思い、物越しに対面なさいます――

「たはぶれにくくもあるかな。かくてのみや」
――(お伺いするのを差し控えて耐えていましたが)とても居たたまれぬほど恋しいのです。いつまでこのまま、物を隔てての状態で居られましょうか――

 と、ひどくお恨み申し上げます。

「やうやうことわり知り給ひにたれど、人の御上にても、物をいみじく思ひしづみ給ひて、いとどかかる方を憂きものに思ひはてて、なほひたぶるに、いかでかくうちとけじ、あはれと思ふ人の御心も、必ずつらしと思ひぬべきにこそあめれ、われも人も見おとさず、心違はで止みにしがな、と思ふ心づかひ深くし給へり」
――(大君は)だんだん薫が恨むお気持がお分かりになってこられましたが、中の君の身の上を見るにつけても、物事をひどく悲観なさって、いよいよ結婚などのことを厭なものと思いこまれ、やはり一途に、どうにかして中の君のようには気を許すまい、今は確かにいとしく思ってはいる薫の御心も、一旦結婚すれば必ず辛いと思うことが起きるに違いない。自分も相手(薫)も、お互いに見下げたり、背いたりせずに通したい、と、お思いになって、(結婚はするまい)というお気持を、さらに深くされるのでした――

◆客人居(まろうどい)=客用の部屋 

◆いとからし=いと辛し=まことに辛い

◆たはぶれにくくも=古歌「ありぬやとこころみがてらあひ見ねばたはぶれにくきまでぞ恋しき」戯れにくいまでに恋しいの心

明けましておめでとうございます。
今年も感想なども合わせて、よろしくお願いいたします。
では1/7に。