永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(783)

2010年07月03日 | Weblog
2010.7/3  783回

四十六帖 【椎本(しひがもと)の巻】 その(2)

実は匂宮は、

「大臣をば、うちとけて見えにくく、ことごとしきものに思ひ聞え給へり」
――夕霧左大臣のことを、気軽に打ち解けて会いにくく、煙たいものにお思いになっていらっしゃる――

 このお供にも夕霧のご子息が皆従って来ております。右大弁、侍従の宰相、権中将、頭の少将、蔵人の兵衛の佐などです。

「帝、后も心ことに思ひ聞こえ給へる宮なれば、大方の御おぼえもいと限りなく、播いて六条の院の御方ざまは、つぎつぎの人も、皆わたくしの君に、心寄せ仕うまつり給ふ」
――(匂宮の)御父帝も御母の明石中宮も、格別にご寵愛の匂宮ですから、世間の信望も非常なもので、まして源氏の御一族は明石中宮が源氏の姫君ですので、夕霧以下次々の人も皆匂宮を内々の主君として心を傾けて仕えているのです――

 夕霧の別荘では、

「所につけて御しつらひなど、をかしうしなして、碁、双六、弾碁の盤どもなどとり出でて、心々にすさびくらし給ふ」
――山里に相応しく御設備などを特に面白くして、碁や双六、弾碁(たぎ)の盤などを取りそろえられたのを出して、御供の者たちは思い思いに遊び暮らしていらっしゃる――

「宮は、ならひ給はぬ御ありきに、なやましく思されて、ここにやすらはむの御心も深ければ、うち休み給ひて、夕つ方ぞ、御琴など召して遊び給ふ」
――(しかし)匂宮はめったになさらぬ遠出のためにお疲れになってはいらっしゃるものの、八の宮の姫君たちの事もお考えになって、この地にお泊りになりたいお気持が強くありますので、少し休息なさって、夕方には御琴に興じておられます――

 宇治川を隔てた八の宮の山荘にも、ほのかに向こう岸の楽の音が聞こえてくるのでした。

◆弾碁(たぎ)=中高の盤の両端に碁石を置いて、指で弾き、相手の石に当てて勝負をする遊戯。

7月~8月は奇数日に掲載します。ではまた。