永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(794)

2010年07月25日 | Weblog
2010.7/25  794回

四十六帖 【椎本(しひがもと)の巻】 その(13)

 薫はお心の中で、

「三の宮いとゆかしう思いたるものを、わが心ながら、なほ人には異なりかし、さばかり御心もてゆるい給ふ事の、さしもいそがれぬよ」
――匂宮が案の定この姫君たちにお心を惹かれていらしたが……。我ながらどうしてこうも人と違ってぐずぐずしていることよ。八の宮が姫君のことを、これほど積極的に許していらっしゃるというのに。しかしそれほど急ぐ気にはなれないし…――

「もて離れて、はたあるまじき事とはさすがに覚えず、かやうにて物をも聞こえかはし、おりふしの花紅葉につけて、あはれをも情けをもかよはすに、にくからずものし給ふあたりなれば、宿世ことにて、外ざまにもなり給はむは、さすがにくちをしかるべく、領じたる心地しけり」
――そうかと言って、姫君との結婚をあるまじき事とも考えられず、無関心ではないが、
今のような状態で、季節ごとの花紅葉にこと寄せてしみじみと御文を通わすには、とても好ましいお相手でいらっしゃるので、そのままで良いともおもうけれど、しかし宿世(ご縁が無くて)にて、姫君が他の人と結婚されるのは、やはり残念でならない、などと、もうご自分のものとなさったお気持でいらっしゃる――

 薫はまだ夜深い頃に都にお帰りになりました。八の宮の余命いくばくもないような心細げなご様子を、お労わしく思い浮かべながら、ここ当分忙しい公務をやり終えてからまた宇治に伺おうとのお心積りなのでした。
 匂宮もこの秋には紅葉にこと寄せて宇治を訪ねたいと、あれから御文だけは欠かさず差し上げていらっしゃるのでした。

「女は、まめやかに思すらむとも思ひ給はねば、わづらはしくもあらで、はかなきさまにもてなしつつ、折々に聞こえかはし給ふ」
――姫君たちは、匂宮が真剣に慕ってのご本心ともお思いになっておられぬせいか、却って心安く、時々は何気ない風にあしらっては、折々御文を交換なさっておいでになります――

 こうして秋がいよいよ深まっていくにつれ、八の宮はいっそう余命を心細く感じられて、例の静かな阿闇梨の寺で念仏三昧に浸りたいと思い立たれたのでした。

◆領じたる心地=自分の物とした心持ち。結婚したような気持ち。

では7/27に。