永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(598)

2009年12月22日 | Weblog
09.12/22   598回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(13)

 落葉宮は気強く身を構えていらっしゃるけれども、夕霧は軽々と月の明るくさしている方に引き寄せられて、

「かばかり類なき志を御覧じ知りて、心やすうもてなし給へ。御許しあらでは、さらにさらに」
――これ程の私の想いをお信じくださって、気を楽になさいませ。お許しの無い限りは、決して無理な事は――

 と、きっぱりおっしゃって、そろそろ明け方近くになりました。

「月隈なく澄みわたりて、霧にも紛れずさし入りたり。浅はかなる廂の軒は、程もなき心地すれば、月の顔に月の顔に向かひたるやうなる、あやしうはしたなくて、紛はし給へるもてなしなど、いはむ方なくなまめき給へり」
――月の光が隅々まで澄み渡って、霧にも紛れずさし入っています。(山荘ですので)奥行きのない廂の間の軒が浅いので、宮は、まるで月の面とさし向いになっているようで気まり悪く恥ずかしく、お顔を背けていらっしゃるご様子など、何とも言えずゆかしくみえます――

 夕霧は、

「故君の御事もすこし聞こえ出でて、様ようのどやかなる物語をぞ聞こえ給ふ。さすがになほかの過ぎにし方に思し貶すをば、うらめしげにうらみ聞こえ給ふ」
――亡くなられた柏木のお話も持ち出されては、上手に静かな物語をなさいます。でもやはり、落葉宮が夫の柏木よりも自分を軽んじておられることを、恨めしそうに訴えているのでした――

宮はお心の内で、

「かれは、位などもまだ及ばざりける程ながら、誰も誰も御ゆるしありけるに、自からもてなされて見馴れ給ひにしを、それだにいとめざましき心のなりにしさま……」
――夫の柏木が、位などもまだ低かった頃に、周囲の誰もが将来を認めてくださったので、それに自然に促されて夫婦として睦んできましたのに、それでさえあのように情れない節を見せられ、粗略に扱われたものでしたのに、ましてや…――

◆写真:怪しい月夜

ではまた。