09.12/5 581回
三十八帖 【鈴虫(すずむし)の巻】 その(11)
源氏の琴の音色に女三宮はお数珠をくる手をお休めになって、聞き入っていらっしゃる。十五夜の月が差し出て、光のはなやかをも身に沁みて、源氏は、
「空をうちながめて、世の中さまざまにつけて、はかなく移りかはる有様も、思し続けられて、例よりもあはれなる音に、掻き鳴らし給ふ」
――空をうち眺めて、こうして出家していまわれた女三宮をはじめ、前の尚侍(朧月夜)、斎院(朝顔の斎院)もみな出家してしまわれ、身の周りがさまざまにはかなく移り変わっていく有様を思い続けていらっしゃると、あわれさが胸にあふれてきて、琴にもしみじみとした音色が加わるのでした――
今宵八月の十五夜には、きっと管弦のお遊びなど催されると予想して、蛍兵部卿宮や夕霧が六条院にいらしてみますと、あちらの対にということで琴の音を頼りに尋ねておいでになります。源氏は、
「いとづれづれにて、わざと遊びとはなくとも、久しく絶えにたる、めづらしき物の音など、聞かまほしかりつる一人ごとを、いとようたづね給ひける」
――あまりにもつれづれでしたので、特に管弦の催しというのではなく、久しく聞いていなかった琴の音を聞きたくて、一人で弾いておりましたが、よくまあ、尋ねて来て
くださったことです――
とおっしゃって、お席を設けてお招じ入れになります。
内裏で今夜の月の宴がある筈のところ、中止になったとかで物足りない思いの人々が伝え聞いて、上達部までも参上なさいました。
◆世の中のこと=男女のこと
◆写真:仲秋の名月
ではまた。
三十八帖 【鈴虫(すずむし)の巻】 その(11)
源氏の琴の音色に女三宮はお数珠をくる手をお休めになって、聞き入っていらっしゃる。十五夜の月が差し出て、光のはなやかをも身に沁みて、源氏は、
「空をうちながめて、世の中さまざまにつけて、はかなく移りかはる有様も、思し続けられて、例よりもあはれなる音に、掻き鳴らし給ふ」
――空をうち眺めて、こうして出家していまわれた女三宮をはじめ、前の尚侍(朧月夜)、斎院(朝顔の斎院)もみな出家してしまわれ、身の周りがさまざまにはかなく移り変わっていく有様を思い続けていらっしゃると、あわれさが胸にあふれてきて、琴にもしみじみとした音色が加わるのでした――
今宵八月の十五夜には、きっと管弦のお遊びなど催されると予想して、蛍兵部卿宮や夕霧が六条院にいらしてみますと、あちらの対にということで琴の音を頼りに尋ねておいでになります。源氏は、
「いとづれづれにて、わざと遊びとはなくとも、久しく絶えにたる、めづらしき物の音など、聞かまほしかりつる一人ごとを、いとようたづね給ひける」
――あまりにもつれづれでしたので、特に管弦の催しというのではなく、久しく聞いていなかった琴の音を聞きたくて、一人で弾いておりましたが、よくまあ、尋ねて来て
くださったことです――
とおっしゃって、お席を設けてお招じ入れになります。
内裏で今夜の月の宴がある筈のところ、中止になったとかで物足りない思いの人々が伝え聞いて、上達部までも参上なさいました。
◆世の中のこと=男女のこと
◆写真:仲秋の名月
ではまた。