永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(592)

2009年12月16日 | Weblog
09.12/16   592回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(7)

 丁度霧がこの家の軒端にまで立ち渡ってきましたので、夕霧が、

「罷でむ方も見えずなりゆくは如何すべき」
――霧が深くなって帰る道も見えなくなってゆくのですが、どうしたらよいでしょう――

 とて、夕霧の(歌)

「山里のあはれをそふる夕霧にたち出でむそらもなき心地して」
――山里の風情を一層深める夕霧のために、私は立ちかえる気にもなれません――

 と申し上げますと、落葉宮の返歌は、

「山がつのまがきをこめて立つ霧もこころそらなる人はとどめず」
――山人の住いを立ちこめている霧も、あなたのような浮気な人は留めません。(間もなく晴れることでしょう)――

 と、あちらからほのかに聞こえてくるお声や御気配に夕霧は心惹かれて、まったくお帰りになることなど忘れてしまわれたようです。

「中空なるわざかな。家路は見えず、霧の蘺は立ちとまるべうもあらず、やらはせ給ふ。つきなき人はかかる事こそ」
――なんと、どちらつかずな事ですね。帰る道は見えず、霧に囲まれたお住まいからは、留まれそうもなく追い出しなさる。恋に不慣れな私はこんな目にあうのですね――

 などと、そのまま腰をお上げにならず、押えかねた想いを仄めかしていらっしゃる。

◆写真:比叡山から下を臨む

ではまた。