永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(484)

2009年08月22日 | Weblog
 09.8/22   484回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(38)

 柏木は真実、辛くてならぬご様子で、さらに、

「さらば不用なめり。身をいたづらにやはなしぬ。いと棄て難きによりてこそ、かくまでも侍れ。今宵に限り侍りなむもいみじくなむ。つゆにても御心許し給ふ様ならば、それに代へつるにても棄て侍りなまし」
――この上は生きる甲斐もなさそうです。命くらい棄てても惜しいなどと思っていたわけではありません。今までは未練がありましたのでこうして生きていたのです。それが今宵限りになると思いますと、悲しくてなりません。少しでもお許しくださるとおっしゃっていただければ、お情けに代えて命も棄てましょうものを――

と言いながら、

「掻き抱きて出づるに、はてはいかにしつるぞと、あきれて思さる」
――(女三宮を)お抱きしたまま外に出ようとなさるので、宮は、いったいどういう事になっていくのかと、ただただお心も空に狼狽していらっしゃる――

 お部屋の隅の衝立を引き広げて、その向こうの戸を開けますと、渡殿の南の戸が、昨夜入って来た時のままに開いていて、空の色は今にも明けそうな風情です。柏木は宮のお顔をちょっとでもお見上げしたい衝動にかられて、格子をそっと引き上げながら、

「かういとつらき御心に、うつし心も失せ侍りぬ。すこし思ひのどめよと思されば、あはれとだに宣はせよ」
――こんな辛いお仕打ちをなさるので、生きている気もいたしません。そう短気を起こすな、とお思いならば、せめてあわれとでもおしゃってください――

 と、もう半ば脅すような話ぶりに、女三宮は「死ぬなどとは、とんでもない言いがかりを」と思いますが、

「物も言はむとし給へど、わななかれて、いと若々しき御有様なり」
――何か言おうとなさいますが、わなわなと震えるばかりで、実に子供っぽいご様子です――

◆思ひのどめよ=思いをのびやかに

明日8/23(日)~8/29(土)まで1週間お休みします。
8/30から、どうぞよろしく。