永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(479)

2009年08月17日 | Weblog
09.8/17   479回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(33)

 柏木は、これで終ってはなるものかと、なんとかなだめるのに一生懸命です。

「まことは、さばかり世に無き御有様を、見奉りなれ給へる御心に、数にもあらずあやしきなれ姿を、うちとけて御覧ぜられむとは、さらに思ひかけぬ事なり。ただ一言、物越にて聞こえ知らすばかりは、何ばかりの御身のやつれにかはあらむ。神仏にも思ひこと申すは、罪あるわざかな」
――いや全く、源氏ほどご立派な方に親しみ馴れておられる宮のお心に対して、私のようなつまらぬ賤しい姿を、親しくご覧に入れようとは、決して思いもかけぬことです。ただ一言、物越しにでも申し上げて、わたしの気持をお知らせするだけのことですのに、それがどれほど宮の不名誉になることでしょうか。神仏に対しても、心に思っていることを申すのに何の罪があるというのですか――

 と、柏木は多くの誓いを立てておっしゃるので、まだ若くて分別の浅い小侍従位の者は、命に代えてもというほどの熱心さに、とうとう拒みきれなくて、

「もし、さりぬべき隙あらば、たばかり侍らむ。院のおはしまさぬ夜は、御帳のめぐりに人多く侍らひて、御座のほとりに、さるべき人必ず侍ひ給へば、いかなる折りをかは、隙を見つけ侍るべからむ」
――もし適当な折がありましたら手引きいたしましょう。源氏がご不在の夜は、宮のお側にはしっかりした女房が必ず付いておられますから、どんな折をみて隙をうかがったらよいのでしょう――

 と、困りはてて六条院へ帰っていきました。

「いかにいかにと日々に責めら困うじて、さるべき折をうかがひつけて、消息しおこせたり」
――(柏木から)毎日どうだ、どうだと責められて困った小侍従は、丁度良い機会をさがしだして、柏木に手紙を渡します。――

柏木は、

「よろこびながら、いみじくやつれ忍びておはしぬ」
――喜びつつ、ごく目立たぬお姿で、六条院に忍んで来られました――

◆なれ姿=着古した衣服を身につけたすがた、みすぼらしい姿。

ではまた。