永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(472)

2009年08月10日 | Weblog
09.8/10   472回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(26)

 女房たちも心配の余り、源氏に早くお知らせしようとしますが、紫の上は苦しそうな中でも、「知らせてはいけません」と言われます。しかし熱も高く上がってきて、これでは、と明石の女御にお知らせしますと、そちらから源氏に伝えられて、驚いた源氏は、胸のつぶれる思いで急いで女三宮のお部屋からお帰りになりました。
 
 紫の上の大そう苦しそうなご様子に、源氏は、

「昨日聞こえ給ひし御つつしみの筋などおぼし合わせ給ひて、いと恐ろしくおぼさる」
――昨日、紫の上に、ねんごろにご祈祷(厄除け)のことなどお薦めしたことを思い合わされて、しみじみ不吉で恐ろしく思われます――

 お粥も召し上がらず、ちょっとした水菓子さえも物憂くなさって、起き上がる事もできず何日か経ちました。源氏は厭な胸騒ぎがして、気も動顚の状態ながらも、僧など召して加持祈祷を、熱心におさせになります。

 紫の上の状態は、

「胸は時々おこりつつわづらひ給ふさま、耐えがたく苦しげなり。さまざまの御つつしみ限りなけれど、しるしも見えず」
――胸の痛みがときどき起こって耐えがたく苦しまれ切なそうです。神仏への様々なご祈祷やご謹慎もこの上なくなさいますが、一向にこれという効き目も見えません――

 病気というものは、たとえ重体であっても、自然に回復するということもありますが、この紫の上のご様子では、とてもそうとは思えず、源氏はただただ心配で悲しいとばかりご覧になって、朱雀院の御賀のことも、自然に立ち消えになってしまいました。
 朱雀院も紫の上のご病気をお聞きになって、たびたびお見舞いを山の寺よりお寄せになります。

「同じさまにて、二月も過ぎぬ。言う限りなくおぼし歎きて、こころみに所をかへ給はんとて、二条の院に渡し奉り給ひつ」
――紫の上のご病状が一向によくならないまま、二月も過ぎました。源氏はただもう居ても立ってもいられないほどご心配になられ、試みにお住いを変えてみてはと、紫の上が私邸として使っておられた、気持ちの安まる二条の院にお移し申し上げました――
 
 ◆写真:病気の紫の上  wakogenjiより