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落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

A Wee Bit O'Irish

2008年09月28日 | movie
『消えたフェルメールを探して 絵画探偵ハロルド・スミス』

1990年春、セントパトリックデーの深夜、ボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館から13点合計5億ドル相当の美術品が強奪された。被害を受けたのはレンブラントやマネ、ドガの傑作と、フェルメールの『合奏』。17世紀の画家フェルメールの画業生活は短く、長く市場から忘れられていたこともあって現段階で実在が確認されている作品はたった35点しかない。稀少価値は高く、『合奏』はこれまでに盗難に遭った美術品の中でも最も高額な作品といわれている。
『合奏』のファンだという監督自らが美術品捜索のスペシャリスト、ハロルド・スミスにアクセス、捜査の現場に密着したドキュメンタリー。

ここ数年で日本でも公開本数が増えつつある(そしてこのブログでのレビュー本数も増えている)ドキュメンタリー映画だが、美術品にまつわる作品はけっこう珍しいんじゃないかなあ。しかも主人公となる絵画は盗品。レアだ。
それにしても熱い映画です。なにしろ監督が愛してやまない作品が盗まれたまま戻ってこないのだから、思い入れもひとしおだろう。ぶっちゃけ観ててついてけないなと感じるパートもけっこう多い。ぐりの真後ろの男性客なんかくすくす笑い通しだった(うるせえよ)。隣の席の女性客は携帯見まくり(出てけ)。アップリンクでこんな観客の態度が悪い上映は初めてです。
それでもぐりは監督や映画に登場する人たちの熱狂には共感を覚える。映画にはたくさんの関係者が登場する。美術館員、ジャーナリスト、作家、警察関係者、元美術品泥棒、そしてイザベラ・スチュワート・ガードナー本人と彼女の画商の往復書簡。彼らは魂の底からフェルメールを、『合奏』を、芸術品を、美術館を熱烈に愛してやまない。人によってはそんな愛はどこか滑稽にうつるかもしれない。でも愛は愛だ。うるわしいではないか。ぐりは美しいと思う。

もうひとりの主人公ハロルド・スミスのパーソナリティが特異なのが、この映画をさらにチャーミングにひきたてている。
50年間も皮膚ガンと戦う彼は黒いアイパッチに帽子に義鼻といういでたちで世界中をとびまわっている。撮影当時既に75歳だがかくしゃくとして、どんな相手もくつろがせつつ情報を引き出すという特殊な技能を発揮する。
しかし美術品専門の保険調査員て職業があるなんて、ほとんど世の中には知られてないんじゃないかな?ぐりは大学で博物館学をとってたので習いましたけれど。彼らのコネクションは捜査関係者やキュレーター、美術家、鑑定士や修復師、コレクターなど多岐にわたる。まるで推理小説の舞台そのままのリアルワールド、考えただけでワクワクするような世界である。かっこいい。クールじゃ。
欲をいえばこのアーティスティックかつスリリングかつセレブーなコネクションをもっとうまく見せてくれれば、映画としてさらにカラフルになったんではないかなという気はする。『合奏』周辺人物のみで世界が完結しちゃってて、なんだか観てて息がつまるとゆーか、どっかアングラな感じがしてしまってるのが惜しかったです。

ガールズ・イン・ブルー

2008年09月28日 | movie
『女工哀歌』

広東省沙渓のリーフェン縫製工場では、10代の少女たちが寝る間も惜しんでジーンズを縫っている。
彼女たちの時給は8円未満、毎日朝8時から0時過ぎまで働いて月収にしてたった¥3,000〜¥7,800。それすら支払いはしばしば滞る。食事代や寮費、お湯代までがそこから天引きされる。
工場でつくられるジーンズの納入先は欧米の多国籍企業。有名ブランドも含まれるが、消費者が商品に支払う代金のうち、製造者の手にわたる工賃は2〜3%に過ぎないのだ。
ゲリラ撮影で16歳の工場作業員と社長に密着取材したドキュメンタリー。

監督はスイス生まれのイスラエル人、ミカ・X・ペレド。この方は『STORE WARS: When Wal-Mart Comes to Town』で話題になられた方ですね。ぐりは作品は観たことなかったんだけど、噂は小耳に挟んだよーな気が。
実際作品観ると、んー・・・ちょっと長いですかね?なんだろ?構成の問題なのかしらん?88分よりずっと長く感じました。できればこのリーフェン縫製工場以外の企業も取材して、国際市場の90%という驚異的なシェアを誇る中国のアパレル業界全体を俯瞰できるパートも入れてほしかった。
まあでも監督の意図はそーゆーことじゃないんだろーね。たぶん。
この映画の主人公はジャスミンという新人作業員。彼女は初めて親元を離れて、家族の役に立てるという希望に満ちて都会にやって来る。日が経つにつれて同世代の同僚と仲良くなったり、ホームシックにかかったり、なかなか給料が支払われないのに不安になったり、女の子らしい感情の揺れが繊細に描かれる。この描写によって、観客がいつも穿いているジーンズのつくりてが、人格をもったひとりの人間としてはっきりとイメージが浮かんでくるという仕掛けになっている。

実をいうとぐりはほとんどジーンズを着ない。数年前までは現場に出るときは便利だから穿いてたんだけど、最近はまったくといっていいほど着ない。ふだん着ている服の8割はリサイクル品で、製造国は日本か欧米(大抵フランスかイタリア)のものが多い。何年か前からか、品質そのものよりも異常な安値が不可解でアジア製品を買わなくなった。まだ着られるものならリサイクル品でじゅうぶんだし。
べつにアジア製品が嫌いだというわけではないけど、買っても払った代金が製造者にわたらず、モノを右から左へ動かしてるだけの中間業者ばかりが儲かるビジネスは正直あんまり好きになれないし、できればあんまり関わりたくない。
タダより高いものはない、と昔からよくいうけれど、今や高い代償を支払わされているのは消費者ではなく製造者たちである。こういう世の中はどう考えてもおかしい。おかしいってことを、誰もがちゃんと把握してないといけないんじゃないかな?

関連レビュー:
『この自由な世界で』
『いま ここにある風景』
『おいしいコーヒーの真実』
『いのちの食べかた』
『ファーストフード・ネイション』
『ダーウィンの悪夢』
『無用』
『ナイロビの蜂』 ジョン・ル・カレ著
『ナイロビの蜂』