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落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

絶賛録画中

2008年09月08日 | movie
『LOOK』

全米に推定3000万台設置されているという監視カメラ。平均的アメリカ人は1日200回撮影されているという。
全編監視カメラで撮影された市民たちの姿を通して、監視社会の欺瞞を問う問題作。

ちょっと前にも全部監視カメラで撮影したPVなんてのもありましたがー。
ぐりはカメラに撮られるのがキライなので(撮るのは好き)、割りと監視カメラが気になる方です。でもアメリカじゃなくても日本だってそこらじゅう監視カメラだらけだから、気になったって避けられるワケじゃない。通勤の駅にも踏切にも交差点にもコンビニにも、オフィスビルにもマンションにもショッピングモールにも、ガソリンスタンドにも病院にも学校にも金融機関にも、繁華街にも駐車場にも河川施設にも幹線道路にも、それこそそこらじゅういたるところに監視カメラが溢れてるんだから逃げられっこない。残念ながら。
そうして人は監視カメラの存在に慣れ、監視されることに対して無防備になっていく。無視された監視カメラにはいったい何が映っているだろう、という仮定でつくられたのがこの映画だ。

よく監視カメラを「防犯カメラ」なんていうけど、果たしてほんとうにカメラは犯罪を未然に防いでくれるのだろうか。家族を、子どもを、大切な人を危険から守り、犯罪者を遠ざけてくれるのだろうか。
そんな疑問がこの映画ではことごとく無惨に覆されていく。ティーンは平気で犯罪に手を染め、強盗は堂々と被害者を連れ去り、会社員たちは嬉々として同僚をいじめ、家庭では善き父善き母であろう普通の男女が不倫に勤しんだりする。カメラはそれをただ撮るだけ。黙ってじっと撮るだけ。後で捜査や裁判で映像が役に立つことはあるかもしれない。けど撮るだけでは何ひとつ守ることなどできない。なぜなら撮っていることが誰にでもすぐにわかる状態になっていれば、カメラの前では何も起こらないからだ。カメラがあることがわかりにくくなっていれば、たとえ撮られていても悪事はいくらでも起きてしまう。この映画だけじゃなく、TVの情報番組などでときどき紹介される「監視カメラの衝撃映像」なんてのがいい例だ。
カメラの前で犠牲者は虚しく命を落とし、家族が破壊され、人間の尊厳が損なわれていく。カメラはそれをただ撮るだけ。
結局、人の安全と倫理を守るのは人であって機械じゃない。機械で正義が保障されたりもしない。正義は人が自分で保障するものだ。それを忘れた人間にはそれなりの代償が待っている。

この映画、全然話題になってないし都内でも単館上映のしかもレイトショーだし、もしかして全然おもろなかったらどーしよ?と思ってたんだけどー。
めーちゃーめーちゃーおもしろかったよー。ふつーに娯楽映画としてよくできてます。話自体ちゃんとしてるしさ。
手法としては全カットを監視カメラで撮ったセミドキュメンタリー風なんだけど、物語はある都市に暮す人々の群像劇になっていて、人物同士が少しずつ関わって全体がリンクするようになっている。だから映画としてきちっとまとまってて非常にわかりやすい。全編みっしり身の詰まった、社会派娯楽映画として一級品の完成度といってよろしいかと思います。こんなひっそり公開なんてもったいなすぎです。
キャラクター描写もリアルだし設定もいかにもありそうな感じで、観てて身につまされることばっかりでした。コワいよー。サムいよー。
ところで一般的に監視カメラって音声は記録してないよね?たぶん?この映画はフィクションなのでちゃんと音声があるけどね。どーなんやろー。

パラレルアワー

2008年09月08日 | book
『鼓笛隊の襲来』 三崎亜記著
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表題作を含む9編を収録した短編集。
これはえーとファンタジーなのかな?たぶん?SFってゆーほど大袈裟なもんじゃなくって、ごくリアリスティックな世界観にひとつだけ現実にはありえない設定があって、その設定を軸に短い物語が展開されていく。
赤道上に発生した巨大な「鼓笛隊」の襲来に備えるある一家。朝目覚めて「恋人を失った」喪失感をありありと感じるのに、恋人そのものの実在の記憶がない女性。労働者の権利として覆面をかぶることが許された社会。公園に本物の象が滑り台として設置された新興住宅地。などなど。
ひとつひとつは長さもあっさりしたものだし、どれもそれほど凝った設定でもないから、ファンタジーといっても全然誰にでも読みやすい本だと思います。ぐりはファンタジーあんまり得意じゃないけど、こーゆーのは好きですね。読んでてまったく肩が凝らないところがいい。

とはいえ、それぞれの物語に与えられた設定は深い暗喩表現にもなっていて、読めば誰にでも「ああ、あのことをいってるんだな」というのはなんとなく想像がつく。それも特定のあるものをファンタジーにすりかえるような単純な暗喩ではなくて、ひとことではまとめられない、あるいはまとめてしまうと意味がなくなるような総合的な事象を、うまくひとつの設定に置き換えて、その設定をとりまく現実を通して、「これってこーゆーことだったりしないかい?」みたいなごく軽いノリで揶揄してたりする。オシャレである。
そういうのをひとつひとつ考えながら読んでると、思わずにんまりしてしまったり、背中がぞーっとしてきたり、ほろっと涙が出そうになったり、ストレートに表現されるよりもさらに心の深いところに響いてくる。不思議な感じ。

ここしばらくへヴィーなノンフィクションばかり読んでいて、脳味噌のしわとしわの間にドロドログチョグチョしたものがいっぱい挟まってるみたいな状態になってたので、こーゆー本はアタマのリフレッシュにちょうどよかったです。
お疲れな方に、是非オススメ。おもしろかったよ。