◎「ぼくらの文庫」(大雅堂)について
先の大戦の末期、京都市中京区の大雅堂から、「ぼくらの文庫」という叢書が刊行された。国立国会図書館には、清水三男『ぼくらの歴史教室』(一九四三)をはじめとして七冊が架蔵されている。ただし、この七冊のほかに、「ぼくらの文庫」が刊行されていないとまでは断言できない。
本日は、その「ぼくらの文庫」の巻末にある「『ぼくらの文庫』刊行のことば」を紹介してみよう。引用は、小林篤郎『物質の謎』(一九四四年八月)より。
『ぼくらの文庫』刊行のことば
『ぼくらの文庫』は若い日本の国民である皆さんに楽しく有意義に読んでいただくために生れたものです。皆さんは現在、学校にまなび、やがて世界に冠たる大日本帝国臣民として思ひきり活躍する日を侍ちこがれてゐられるであらうし、或ひはまた既に現在おとなに伍してけなげにもそれぞれの貴い職域において戦ふ大日本帝国臣民のつとめを果たしてをられるのです。
戦ふ日本の現在をしつかり担ふためにも、輝かしい日本の将来を雙肩に支へて立つためにも、皆さんはいまから最もりつぱな『精神の糧〈カテ〉』を身につけねばなりません。
『ぼくらの文庫』はこの精神の糧として、すぐれた学者たちが一生けんめい研究して獲られた〈エラレタ〉高く深い人間の智慧を少しでも皆さんがたに呑みこんでいただくためにやさしく、おもしろく書かれたものばかりです。
皆さんは『ぼくらの文庫』を読んできつと為になつたと思はれたことでせう。この文庫によつて得た知識と教養を日本帝国の発展のために生かすこと、これこそ皆さんに負はされた誇らしい義務なのです。
この責任をりつぱに果して下さること、たゞそれだけがこの本を書いて下さつた先生がたと刊行者の心からのお願なのです。