礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

二・二六事件「蹶起趣意書」(津久井龍雄『右翼』より)

2018-02-25 01:03:30 | コラムと名言

◎二・二六事件「蹶起趣意書」(津久井龍雄『右翼』より)

 本日も、津久井龍雄著『右翼』(昭和書房、一九五二)の紹介。本日、紹介するのは、二「右翼の回想」の(8)「奔騰するテロリズム」から、「二・二六の蹶起趣意」の節(全文)である。
 節の後半は、「蹶起趣意書」の引用となっている。用字、表現などが、一般に知られているものとは異なる。この違いの拠って来たるところは不明だが、ここでは、あくまでも、津久井本にある形で紹介する。

   二・二六の蹶起趣意
 二・二六事件は正に我が陸軍在って以来の大事件であるとともに、それの及ぼした政治的社会的影響は甚大である。前に起った血盟団や、五・一五事件に比してその規模の大なることはいわずもがな、斎藤〔実〕内大臣、渡辺〔錠太郎〕教育総監、高橋〔是清〕大蔵大臣等が殺され、一時は岡田〔啓介〕首相も同様の厄にあったと伝えられたのだから、一世を聳動〈ショウドウ〉したのも無理はない。
 しかしこれほどの騒ぎも、結局は軍部の政治的発言を一段と助長し、即ち軍部の独裁性に一歩を進めたというのみで政治革新、社会革新という点には殆ど寄与することとがなかったのである。二・二六蹶起の趣旨は次の蹶起趣意書に見ても明かであるけれども、彼等が天皇中心といい、国体明徴とい»うことの趣旨は殆どウヤムヤとなり、単に軍の上層部をして政治干与にますます増長させる結果となったのは遺憾である。

   蹶起趣意書

謹んで惟る〈オモンミル〉に我が神洲たる所以は万世一神たる天皇陛下御統帥の下に挙国一体生成化育〈カイク〉を遂げ終に八紘一宇〈ハッコウイチウ〉を完う〈マットウ〉するの国体に存す。この国体の尊厳秀絶は天祖肇国〈チョウコク〉神武建国より明治維新を経て益々体制を整へ今や方に〈マサニ〉万邦に向つて開顕進展を遂ぐべきの秋〈トキ〉なり。
然るに頃来〈ケイライ〉顕に〔ママ〕不逞凶悪の徒簇出〈ソウシュツ〉して私心我慾を恣〈ホシイママ〉にし至尊絶対の尊厳を蔑視し僭上これ働き万民の生々化育を阻碍して塗炭〈トタン〉の疾苦を呻吟せしめ随つて外侮外患〈ガイブガイカン〉日を逐うて激化す。所謂元老・重臣・軍閥・財閥・官僚・政党等はこの国体破壊の元兇なり。倫敦〈ロンドン〉海軍条約並びに教育総監交迭〈コウテツ〉に於ける統帥権干犯、至尊兵馬〈ヘイバ〉大権の僭窃〈センセツ〉を図りたる三月事件、あるひは学匪・共匪・大逆教団等々と利害相結んで陰謀至らざるなき等は最も著しき事例にして滔天〈トウテン〉の罪悪は血泣憤怒〈フンヌ〉寔に〈マコトニ〉譬へ難き所なり。中岡〔艮一〕、佐郷屋〔留雄〕、血盟団の先駆捨身、五・一五事件の憤騰、相沢〔三郎〕中佐の閃発〈センパツ〉となる。寔に故なきに非ず。而も幾度か頸血を濺ぎ〈ソソギ〉来つて今尚些かも〈イササカモ〉懺悔反省なく然も依然として私権自慾に居つて苟且偸安〈コウショトウアン〉を事とせり。露支英米との間〈カン〉一触即発して祖宗遺垂〈イスイ〉のこの神洲を一擲〈イッテキ〉破滅に堕らしむる〈オチラシムル〉は火を賭る〈ミル〉より明かなり。内外真に〈マコトニ〉重大危急今にして国体破壊の不義不臣を誅戮〈チュウリク〉し稜威〈リョウイ〉を遮り御維新を阻止し来れる奸賊を芟除〈サンジョ〉するに非ずんば皇謨〈コウボ〉を一空せん。宛かも〈アタカモ〉第一師団出動の大命渙発せられ年来維新翼賛を誓ひ殉国捨身の奉公を期し来りし帝都衛戍〈エイジュ〉の我等同志は、将に〈マサニ〉万里征途に上らんとして而も省みて内の亡状に憂心転々禁ずる能はず。
君側の奸臣軍閥を斬除〈ザンジョ〉して彼の中枢を粉砕するは我等の任として能く〈ヨク〉なすべし。臣子たり股肱〈ココウ〉たるの絶対道を今にして尽さずんば破滅悖倫〈ハイリン〉を飜すに由〈ヨシ〉なし、茲に同憂同志機を一にして蹶起し奸賊を誅戮して大義を正し国体の擁護開顕〈カイケン〉に肝脳を尽し以て神洲赤子の微衷〈ビチュウ〉を献ぜんとす。皇宗の神霊冀くば〈コイネガワクバ〉照覧冥助を垂れ給はんことを。
 昭和十一年二月二十六日    陸軍歩兵中尉 野中四郎外同志一同

 趣意書中、「顕に」とあるのは、文脈から見て、「頓に」〈トミニ〉の誤植ではないかと思ったが、そのままにしておいた。

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