礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

成功の秘訣は万人に率先して実行すること

2017-12-23 04:37:54 | コラムと名言

◎成功の秘訣は万人に率先して実行すること

 森脇将光著『三年の歴史』(森脇文庫、一九五〇)の「地方遊説の旅」の部から、「京都」という文章を紹介している。
 昨日、引用した箇所に続き、次のように続く。これは、「中年の男」と「坊主頭の青年」からの質問、およびそれに対する回答である。

 ついで立った中年の男が、
「森脇さんが、いままでに一番えらいと思った人は誰ですか」
「そのとき、その場において、それぞれのことに応じて、えらいと思った人はあるが、これは本当にえらい人だ、と特定の人を挙げていうのは、なかなか困難なことです」
「では、貴方の御商売上から、えらいと思った方の名前をいってて下さいませんか」
「そうですなあ、それでは私が、近頃特に感心している人について、お話しましょう。それは、私がいま出している『風と共に去り風と共に来りぬ』の印刷をしてもらっている『中外印刷』の社長渡辺一郎氏のことです。この社長は数年前、事業が不振に陥ったとき、私のさゝやかな援助によって、その危機を脱せられたことがありました。数年後、この本の発行を聞いて、ぜひ昔うけた恩義に報いたいと、その印刷を自ら買って出て、それこそ寝食を忘れるまでに、骨折りと尽力をしてくれていることです。こういうことは、口では云い易く、実行はし難いものです。しかも有難いと思ったことも、時が経てば忘れてしまい、報謝の気持のない人たちの多い今の世に、近頃、まことに感心なことだと思っております」
と云い、更に恩義について私の信念を披瀝した。いろいろと質問も続き、最後となろうとするころ、坊主頭の青年が立って云った。
「金持になるには、どうしたらなれますか」
 満場、どっと笑いが渦巻いた。
「さあ――」
 一同、私の口から、いかなる言葉が洩れるか、と固唾〈かたず〉をのんで演壇を見つめている。
「これは、なかなか簡単に云い尽せないことですが、せめては、こういうお話をしましょう。こゝに富士山があります。これを眺める人はだれだって、この山の頂上まで登って見たいと思うのは、人情の理でしょう。だが、眺めて、登りたい登りたい、と思っているだけでは、永久に登れません。ところが、ここにある人が、登りたいと思った瞬間から、一歩一歩登りはじめたとします。そうすれば、いつか、その人は、頂上をきわめるときがくるでしょう。要するに、成功の途はたゞ一つ、よし、と考え、したいと思つても、因循姑息、行動に移さないでいることを、いち早く、万難を排しても、それを実行に移すこと、そして、秒一秒をおろそかにせず、その目標に向って、真剣に立ち向うことだと思います」
【一行アキ】
――法然上人一枚起請文にかえて
 たらふく遊んで、たらふく食って、たらふく寝て、たらふく働かずに、富や仕合せを求むるものは、かげろうを追う姿であり、砂上に楼閣を築こうとする、愚か人である。成功の途は、たゞ一つ。万人がかくと考え、日夜実行すれば、よしと思いつゝも、それを行わないことを、万人に卒先していち早く、これを実行することである。
【一行アキ】
 と結ぶと、その青年が、この言葉をいかに解釈したかはわからぬが、一瞬場内は、シンを打ったような、静寂につゝまれたのであった。
 講演も終了して、宿へと車を駆った。暗い道はひっそりと静まりかえり、殊更に夜気の冷たさを思わせる、京都の夜だった。
 次に、二月二十日の都新聞を採録してみる。

 最後に森脇は、法然の一枚起請文〈イチマイキショウモン〉に言及しているが、ここで、「たらふく遊んで」云々とあるのは、一枚起請文にある言葉ではない。あくまでも、森脇の言葉である。「法然上人一枚起請文にかえて」というのは、一枚起請文に「替えて」、すなわち、一枚起請文ふうに簡潔に言えば、という意味であろう。
 森脇は、これら質疑のあとに、一九五五年(昭和三〇)三月二〇日の都新聞記事を引用しているが、その紹介は次回。

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