礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

柏木隆法氏の『千本組始末記』と取材協力者

2014-09-11 04:43:36 | コラムと名言

◎柏木隆法氏の『千本組始末記』と取材協力者

 昨日の続きである。映画界における往年の大スター・中野英治といっても、知らない方も多いかと思う。ウィキペディアの「中野英治」の項には、次のようにある。

中野 英治(なかの えいじ、1904年12月5日-1990年9月6日)は、日本の俳優である。本名は中野 榮三郎(なかの えいざぶろう)である。サイレント映画の時代に現代劇において、鈴木傳明〈デンメイ〉、高田稔と並ぶスターであった。

 このあとに、かなり長い説明が続く。ここでは引用しないが、それを読んでいただければ、中野英治が、かつては映画界の大スターであり、異色の映画人であったことを理解していただけることであろう。
 柏木隆法氏は、復刊された『千本組始末記』(『千本組始末記』刊行会、二〇一三)の「あとがき」の中で、次のように書かれている。

 取材は、有名俳優ともなると面会するだけでも困難が予想された。当初、期待しないまま、関係者に取材申し込みの手紙を出したところ、意外なことにほぼ全員から承諾の返事があった。最初に手紙を寄せて下さったのは市川右太衛門氏であった。続いて若山富三郎氏、三橋達也氏と続き、有名無名俳優から現役の侠界の人、右翼・左翼関係から笹井家の遺族など、三カ月の間、毎日のように取材させていただいた。「笹井さんのためなら……」といって自ら名乗り出る人も多かった。取材順に名前を記すと次の方々である。
 福谷仙寿、笹井慈朗、笹井豊子、笹井烈、鈴木晰也、久世勝二、近藤茂雄、三神忠、古河三樹松、絲屋寿雄、宮本三郎、マキノ雅弘、俊藤浩滋、増田淑夫、鈴木一子、石川百合子、高嶋次郎、伊藤朝子、片山英一、松本常保、田中春男、東竜子、船越勤、加藤正俊、荒金天倫、上森小鉄、田中伊三次、衣田義賢、村上二郎、青野美代、畠山清行、小生夢坊、中野英治、木村荘十二、森繁久彌
 右の方々は取材中に亡くなった方もあり、出版から二十年経たこんにちでは、大半が亡くなった。このほか、書面で応じて下さったのは、黒川弥太郎、北上弥太郎、小林重四郎、奥田久司、熊井啓の各氏であった。

 文中、「笹井さん」とあるのは、笹井末三郎のことである。『千本組始末記』は、基本的には、笹井末三郎という侠客の伝記なのである。なお、復刊された『千本組始末記』には、「アナキストやくざ 笹井末三郎の映画渡世」というサブタイトルが付いている。
 さて、上記引用で、多数の取材協力者の名前を挙げた柏木隆法氏は、その少しあとで、「右に挙げた協力者の中でも、特に何度も話を聞いたのは中野英治、近藤茂雄、三神忠、福谷仙寿の四氏であった」と書かれている。筆頭に、中野英治の名前があることに注意されたい。たしかに、『千本組始末記』には、中野英治の名前が何度も登場する。その証言が、紹介されている箇所も多い。
 要するに、中野英治は、単なる大スターではなく、映画界のオモテウラを知りつくした破格の映画人であり、柏木氏が『千本組始末記』の取材にあたっていた当時、映画界に関しては、最も信頼しうる取材協力者であったということであろう。
 柏木氏が中野英治とともに、岡田有希子の自殺に遭遇したのは、一九八六年四月八日のことであった。柏木氏は、『新潮45』の一九八七年六月号に、「映画史を書き変える侠客伝」という文章を発表されている。『千本組始末記』の原点となった文章であるという(未見)。とすると、一九八六年当時、柏木氏はすでに、中野英治ほか関係者への取材を開始しており、その日、中野英治に随行したのも、そうした取材を兼ねてのことであったのではないかと推測される。

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