礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ぼくは、においが よく わかります(ポチ)

2015-12-07 04:25:59 | コラムと名言

◎ぼくは、においが よく わかります(ポチ)

 先日、神田神保町の古本屋で、「太郎花子国語の本 編修方針内容見本」(日本書籍株式会社)という小冊子を入手した。本文三五ページで、粗末な紙が使われている。いつ発行されたものかは不明。
「太郎花子国語の本」というのは、戦後初期に作られた小学生用の「文部省検定教科書」で、一九五一年度(昭和二六度)には、すでに使用されていたようだが、いつから使用され立かについては、未確認。前記冊子は、その「内容見本」であるからして、一九五〇年(昭和二五)、あるいはそれ以前に配布されたものと思われる。
 目次は、以下の通り。

編修一般方針
一、二、三学年総目次
内容の一部
 一年中/二年上/三年上

 本日は、「内容の一部」から、二年上『ひばりのうた』の「2 おまわりさんとポチ」のところを紹介してみよう。この文章は、太郎さんの愛犬「ポチ」の視点から綴られている。なんという斬新さであろうか。改行は原文のまま。誤植と思われる部分があるが、訂正していない。

二年上
 ひばりの うた(内容の一部).
2 おまわりさんとポチ
 一、おとうさんの さいふ
 ぼくは、ポチです。太郎さんのポチです。
 まい朝、ぼくは、太郎さんの まりなげの おあい
てをします。
 太郎さんが がっこうから かえると、いっしょに
あそびに出たり、おつかいに行つたり します。
 きのうの ごごでした。これから 太郎さんと 出
かけようとしていると、太郎さんの おとうさんが、
かえって きました。
 おとうさんは、おうちへ はいると、ポケットを
さがしながら、
「あ、さいふ がない。みちで おとしたかな」
と いいました。そして
「なんだ。ポケットが やぶれて いる。ここから
 おちたんだね。太郎。」
と いって、太郎さんに ポケットを 見せました。
「ほんとう。たくさん、おかねが はいって いたの。」
と、太郎さんが きくと、
「なに、百圓さつが 一まいと、あとは少しばかり
 だ。それよりも、さいふがおしい。きのう、この
 めいし入れと いっしょに かったんだ。」
と いって、おとうさんは めいし入れを 見せました。
「これと おなじ かわで できた さいふだ。」
 太郎さんは めいし入れを もって、
「ポチ、こい、こい。」
と いいながら、ぼくのはなの さきに 出しまし
た。
ぼくは、においが よく わかります。
 めいし入れを かいでみると、なんだか かわの に
おいがします。
 かわの においと、おとうさん のにおいと、いつ
しょに なって、います。
 太郎さんは、
「わかったね、さあ、さがしに 行こう。」
と いって、出かけました。おとうさんは、
「いま、やくばから かえったんだ。やくばまで 行
 って みておくれ。」
 と いいました。
 ぼくは、先に たって 走りました。
 二、草の 中
 道の 上を、かぎながら、あるきました。
 おとうさんの においが する ようです。
 太郎さんは、ぼくの あとから、さがしながら や
って きます。
 はしの ところまで きました。
 はしを わたると、きゅうに においが なくなり
ました。ぼくは、そのへんを、よくよく かいで
みました。
 どうも、左の はたけの 方が くさい ようです。
「おとうさんは、はたけを とおったんだな。」
とおもって、ぼくは、そっちの 方へ 行きました。
 少し 行くと、道の そばの 草の 中に、におい
が します。
 ぼくは、クンクン かぎながら、
「ここです。ワンワン。」
と、いいました。
 太郎さんも、ぼくも、そのへんを いっしょうけん
めいに さがしました。
 けれども、さいふは見つかりません。
「ポチ、ないよ。やくばまで 行こう。」
と いって、太郎さんは 先へ 行きました。
ぼくは、まだ においを かぎながら、あとから
行きました。【以下、次回】

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