◎選挙戦とスキャンダル報道
映画『市民ケーン』(RKO、一九四一)には、主人公チャールズ・フォスター・ケーン(オーソン・ウェルズ)が州知事選挙に出馬する一幕がある(二五日のコラム参照)。選挙戦の終盤、ケーンの当選がほぼ確実となったところで、新聞にスキャンダルを暴露され、ためにケーンは落選する。
このときの対立候補は、知事現職のジェームズ・W・ゲティス(レイ・コリンズ)。ケーンのスキャンダルを暴き、それを新聞に報道させたのも、ゲティスであった。
では、なぜ、ゲティスは、スキャンダルを暴いたのか。理由は明白である。第一に、選挙中、ケーンが選挙戦の間、自分が経営する新聞を使って、ゲティスに対するネガティブ・キャンペーンを繰り返したから。第二に、選挙戦の終盤、ケーンの優勢が決定的になったから。第三に、当選を確信したケーンが、当選した場合、ゲティスを訴追し、在職中の罪を明らかにすると表明したから。第四に、ケーンに愛人がいるという動かぬ証拠を、ゲティスが掴んだから。第五に、ゲティスが持ちかけた「取り引き」に、ケーンが応じなかったからである。
ゲティスが持ちかけた「取り引き」というのは、ケーンが立候補を降りれば、スキャンダルは暴露しないというものであった。ゲティスは、ケーン夫妻を、愛人の部屋まで呼び出し、この取り引きを持ちかける。つまり、その場には、知事のゲティス、愛人のスーザン(ドロシー・カミンゴア)、ケーン、妻のエミリー(ルース・ウォリック)の四人が揃ったわけである。
妻のエミリーも、愛人のスーザンも、ケーンに対し、立候補を降りるように説くが、ケーンは、断固としてそれを拒否する。この間の緊迫感は、何度観ても、尋常でないものがある。それにしても、皆、実に演技がうまい。特に、エミリーを演じたルース・ウォリック、ゲティスを演じたレイ・コリンズ。
「取り引き」の話に入る前、愛人の部屋の扉の前で、四人が横一列に並ぶ場面がある。左から順に、ゲティス、スーザン、ケーン、エミリー。カメラは、これを階段の下から見上げる。非常に印象的なシーンである。
ところで、いま戦われている都知事の選挙戦では、有力週刊誌二誌によって、P候補の「スキャンダル」が報じられている。もちろん断定はしないが、その背景に、何らかの「意図」があって、その意図を実行に移せる「主体」が存在していると見るべきであろう。
都知事の選挙戦は、すでに終盤に入った。ここで生じる可能性があるのは、P候補とは別の、Q候補をターゲットにしたスキャンダル報道である。なぜなら、Q候補は、すでに当選が確実視され、しかも、都議会に対決する姿勢を明確にしているからである。しかし、有力週刊誌の発売日のことなどを考えると、このスキャンダル報道は、不発のままで選挙当日を迎えると見るのが、現実的だろう。
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