礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

農林省「新農地制度の解説」(1947年3月)

2016-11-26 05:32:05 | コラムと名言

◎農林省「新農地制度の解説」(1947年3月) 

 先月の二七日以降、『日本週報』の「第四十八―五十号」(一九四七年三月二三日)から、岩淵辰雄の「続 敗るゝ日まで 一」という文章を紹介した。
 実は、同誌同号は、「新農地制度の解説」の特集号で、そのために、第四八号・第四九号・第五〇号の合併号という変則的な形をとり、定価も「特価六円」となっていた。岩淵辰雄の文章は、この特集号においては、オマケのようなものだったのである。
 特集の内容だが、農林省による「新農地制度の解説」が、七ページから二九ページまであって、これがメインである。さらに、三〇ページから四二ページまでを使って、農地調整法(第二次改正、1946・10・21)および自作農創設特別措置法(1946・10・21)の全文が紹介されている。
 本日は、「新農地制度の解説 農林省」のリードの部分(七ページ)を紹介してみたい。本文(八~二九ページ)は、田辺勝正が執筆しているが、このリードの部分のみは、『日本週報』の編集者が執筆しているようだ(署名はなし)。

新農地制度の解説 農林省

  △農地改革法案の制定まで
 わが国農業の癌ともいふべき農業の問題が初めて法文化されたのは、昭和十三年〔一九三八〕四月第一次近衛〔文麿〕内閣(有馬〔頼寧〕農相)のときであつた。この農地調整法は、結果からみれば農地問題を根本的に解決するどころか寧ろ農民を土地に縛りつけるに役立つた。
 しかも支那事変から戦争へと発展するに伴つて、「農は納なり」とする考えが益々強くなり、戦力の母胎として精神的には尊重されながら、農民は、逆に奴隷の生活へ追詰められ、完膚ないまでに搾取された。
 しかし、敗戦によつて、長い圧政に打ち挫がれた農民が、考えもつかなかった輝かしい農地解放の光がさして来たのである。即ち、昭和二十年〔一九四五〕十二月二十八日、幣原〔喜重郎〕内閣で松村〔謙三〕農相の下に、自作農創設の強化、小作料の金納化、民主的な農地委員会の設立等が、いわゆる第一次の改革として、農地調整法の改正によつて行われた(この内容について本誌創刊号で解説した)。
 しかし、無音の革命といわれる現在の烈しい情勢を、この程度の生温い改革で喰止めることが出来ないのは当然であつた。昨年〔一九四六〕十月二十一日、吉田〔茂〕内閣、和田〔博雄〕農相の下に、農地調整法の第二次的改正が行われ、それは自作農創設特別措置法と共に、議会を通過した。
  △国民生活の大革命
 二法案は昭和二十一年〔一九四六〕十一月及び十二月からそれぞれ施行され、また中心機関となる市町村農地委員会の選挙は、昨年〔一九四六〕十二月、都道府県農地委員会の選挙は、本年二月に行われ、後は実施を待つだけとなつた。
 この改革の内容を一言にいえば、僅か二年間に、約百万戸の地主から、政府が直接約二百万町歩の小作地を買取つて、約三百万戸自作農を創設しようというものである。計画通りにゆけば一町歩以上の不耕作地主はなくなり、農民は殆ど自作農となる。一戸五人の世帯とすれば、地主家族五百万人、小作家族千五百万人合計二千万人即ち、わが国人口の三割五分が、その生活に直接大きな影響を受け、この他〈ホカ〉、間接的な影響をうけるものの数を考えると国内的な大革命といつても決して過言でない。
 本誌はこの重要性に鑑み〈カンガミ〉、両法案の生みの親ともいうべき、農林省農地部長農学博士田辺勝正氏の極めて権威ある、而も平明な解説を特輯することにした。

 このリードを読んだだけでも、戦後の農地改革が、いかに大きな改革であったかということがわかる。もしこのような農地改革が、昭和初期までに実現していたとしたら、五・一五事件や二・二六事件は起きなかったであろう。当然、その後の日本の歴史も、大きく変わったことであろう。
 なお、上記のリードにもあるが、農地改革の必要性は、戦前から叫ばれており、戦中においても、一定の動きはあった。戦後の農地改革は、そうした戦前・戦中からの流れを一挙に推し進めたものとして捉えることができる。「戦中戦後連続論」という考え方は、一九九〇年代に登場したものだが、今、その言葉が頭の中で点滅する。
 なお、四年前の当ブログの記事「昭和12年(1937)における農地法案について」(2012・12・6)を、併せて参照いただければ幸いである。

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